研究実績の概要 |
本研究は、植物と外部環境とのガス交換の場である気孔装置における光、湿度、CO2などの環境情報の統合処理機構について、孔辺細胞と副細胞の協調行動などの解析を通じてその分子実体を明らかにすることを目的とする。昨年度実施研究において、ホスファチジルイノシトール4キナーゼ(PI4K)が気孔のCO2応答性に関係していることが示唆された (Takahashi et al., 2017)。PI4K阻害剤PAOによる気孔のCO2応答阻害効果を指標にした変異体スクリーニングによって、PAO存在下でも気孔応答性が阻害されない変異株pist1 (PAO insensitive in stomata 1) を単離した。pist1はCO2、光に対して野生株と変わらない応答性を示すが、気孔閉鎖を促すホルモンであるアブシジン酸 (ABA) に対する気孔応答性は抑制される。また、この変異株においては、孔辺細胞内の膜交通因子PATROL1の局在に異常を持つことがわかった。これらのことから、pist1の原因遺伝子が気孔応答性やPATROL1の局在に影響を与えている可能性が示唆された。今後は、pist1の原因遺伝子の解析を進めるとともに、pist1における孔辺細胞内または副細胞内におけるシグナル伝達分子の分布や動き、また、pist1と同様の表現型を持つ他の変異株の解析を進める。これらの解析によって孔辺細胞内と副細胞の協調行動による気孔装置の応答機構の分子実体を明らかにする。
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