研究課題/領域番号 |
17J01451
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
奥堀 亜紀子 大阪大学, 人間科学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 東日本大震災 / 死生学 / 喪の作業 / 死者論 / フランス現代思想 / 赦しの問題 / 国際情報交換 |
研究実績の概要 |
宮城県石巻市を中心にして、「東日本大震災後の喪の作業の過程に見られる死者と生者の関係性の変容」に関するフィールドワークを行った。今年度のフィールドワークの成果は、「『どのように死と関わったか』という視点から見た2011年3月11日 ―『住む』ことを通して」と題して、第67回倫理創成研究会「哲学・倫理学とフィールドワークを考える」において報告した。発表では、これまでのフィールドワークの経緯、またその過程において生じた研究課題の変化 (近親者の死に焦点をあてることへの疑問、死の語れなさ・死の分からなさ自体が問題となる点、死者論とケアの問題の学問的関係に関する疑問)を、「生物学的な死と個人として出会う死」、「関係性の死 (死の人称性、二人称の死と三人称の死)」といったテーマを設定して報告した。本発表の成果は、実際に現地に長期滞在をして、継続して現地の人々と交流を重ねた上で、東日本大震災当時の状況、また震災当時とその後の問題に対して哲学の知見が貢献しうる策を提案した点にある。 加えて宗教哲学会第10回学術大会の研究発表部会では、「誰の死が問題なのか ―ジャンケレヴィッチの『死』における人称性の問題」と題した研究発表を行った。発表の課題は『死』の議論に見られる人称性の揺れを検討することであり、ジャンケレヴィッチの著作である『徳論』における人称性の問題との接続を試みることであった。本発表の成果は自身のフィールドワークの成果を分析していく上で用いる哲学的方法の基盤となるものであり、死生学の分野において言及されているジャンケレヴィッチの死の人称性に関する言及がもつ射程を拡げていくことに貢献するものでもある。なお『徳論』における人称性の問題に関する分析は、「他を存在させること ―ジャンケレヴィッチの道徳形而上学―」と題して、『倫理学研究』第47号に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究プログラムの達成度は「おおむね順調に進展している」と判断する。というのも、当初の計画の通り、以下の三点について計画していた研究を遂行したからである。
テーマ(1) 当事者の視点に立った研究者による震災学:平成29年8月から平成30年3月の期間、宮城県石巻市を中心にして、長期滞在する形でフィールドワークを行い、その成果を発表することができた(倫理創成研究会)。 テーマ(2) ジャンケレヴィッチの郷愁論における信仰の問題:平成30年1月31日から2月25日の期間(エルサレム)、ジャンケレヴィッチの郷愁論における信仰の問題に関連する情報収集を行った。関連する情報は具体的に以下の周辺的知識である。①ユダヤ人とパレスチナ人 (パレスチナ問題)について、イスラエル出身者あるいは現地在住者から現状に関する情報を得ながら、各立場の意見を聞いた。②エルサレムに住むユダヤ人同士の問題について、イスラエル出身者からエルサレムにおけるユダヤ人同士の差別に関して説明を受けた。 テーマ(3) 「喪の作業」としてのジャンケレヴィッチの郷愁論の理論と実践:ジャンケレヴィッチの郷愁論を喪の作業という観点から見直すにあたって、宗教哲学の死者論を中心にして、ジャンケレヴィッチの『死』における人称性の問題に関する研究を進め、その成果を発表した(関西倫理学会、宗教哲学会)。また当研究にとりかかるにあたって、いかにしてジャンケレヴィッチにおける「死」が現実的な問題に適応しうるかについて、ジョエル・アンセル(Joelle Hansel, Raissa and Emmanuel Levinas Center)とエルサレムにて議論を繰りかえし、今後の研究を遂行するにあたっての見通し、とりわけ「現象としての死と個人的な死の区別」、「死の人称性の区別が被災地においては明確に把握できなくなる点」を確認した。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は今年度の成果を踏まえて、以下の二点の方策によって研究プログラム「『喪の作業』としてのジャンケレヴィッチの郷愁論」を推進させる。
文献研究:宗教哲学会第10回学術大会の研究発表部会での発表後の質疑応答・交流において議論の的になったのは以下の点であった。①死を人称的に捉える私の視点の在り方について、②『死』で議論される三人称の在り方について、③死生学におけるジャンケレヴィッチの位置づけについて。以上に関する分析の継続が求められている点が明らかになったことによって、今年度のフィールドワーク、それにより焦点を当てて考察し始めた哲学的分析方法の構築に向けての来年度の課題が設定された。来年度は、ジャンケレヴィッチの道徳形而上学、またジャンケレヴィッチの郷愁論との関連についても念頭に置きながら、以上の3点に関する問題を中心にして文献研究を進める予定である。
フィールドワーク:同時に、今年度のフィールドワークの成果によって研究課題として定まってきた、①近親者の死に焦点をあてることへの疑問、②死の語れなさ・死の分からなさ自体が問題となる点、③死者論とケアの問題の学問的関係に関する疑問を念頭に置きながら、フィールドワークを継続させていく予定である。
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