最終年度となる第3年度に従事したプロジェクトの一つは、東アジア社会における教育訓練システムと格差の生成に関する研究である。社会階層論における根本的な問いの一つとして、なぜ国家間で異なる格差の水準が存在するか、そこにおける社会制度の役割は何かということが挙げられる。社会制度の存在は人々にインセンティブや制約をもたらし、そして人々の保有する資源と結びつくことで、異なる社会的行為を帰結させる。しかし様々な研究の蓄積にもかかわらず、社会的格差の生成プロセスに関しては依然として検討の余地があり、より多くの社会を事例にした検証が必要である。とりわけ後発的に近代化が生じ、高学歴化がより急激に進行している東アジア社会において、教育訓練制度の役割を問うことには大きな意義があると考えられる。 こうした関心の下に、日本と台湾を対象にしたパネルデータを比較に使用し、学歴と就業状況、賃金格差の時系列的変化を分析した。分析の結果として、台湾の高学歴女性は一貫して高い就業率を示すのに対して、日本の高学歴女性はライフサイクルの変化に応じて就業率が低下する傾向が明らかになった。また、既存研究に整合して男女間賃金格差の全般的な水準は台湾よりも日本で大きいものの、賃金分布の分位点に注目すると、日本では分布の上位で格差が大きく、台湾では分布の下位で大きいという差異が確認された。これら成果は、複数の国際学会において発表した。
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