研究課題/領域番号 |
17J01520
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
萩原 誠 東京工業大学, 工学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | ナッシュ均衡 / 無支配ナッシュ均衡 / 二重遂行 / メカニズム |
研究実績の概要 |
私の研究目的は、「遂行理論に関して実験経済学の結果を考慮し、より現実経済に近い理論を構築する」ことである。目的達成のための方法の1つとして、「各個人について現実的に持ちうる選好を仮定する」。これに関して、以下のような研究を行った。 Social plannerは、ある社会目標を達成しようと考えている。しかし、social plannerは各個人の選好を観察することができない。そこで、social plannerは各個人の申告できるメッセージ集合を定義し、また申告されたメッセージをもとにどのように帰結を選ぶかを定義する。この方法を「メカニズム」と呼ぶ。メカニズムと各個人の持つ選好によってゲームが定義され、social plannerは各個人がある均衡概念に従って行動すると考える。Social plannerは、各選好の組に対して、その均衡概念のもとで得られる結果の集合が社会的に望ましい帰結の集合と等しくなることを目指す。これを、社会目標を「均衡概念のもとで遂行する」と呼ぶ。 今回行った研究では、「ナッシュ均衡」と「無支配ナッシュ均衡」という2つの均衡概念における二重遂行を分析した。二重遂行に関する先行研究では、各個人が自分の得られる帰結のみを気にして均衡戦略を選択すると仮定し、研究されている。しかし、実験結果より、必ずしも各個人が帰結から得られる利得だけを気にして行動しているわけではなく、社会状況を考慮して行動していることが観察された。本研究では、各個人に「帰結を1つ」申告してもらうメカニズムを定義する。この時に、各個人が、社会的に望ましくない帰結を申告した時に得られる結果が社会的に望ましい帰結を申告した時に得られる結果と無差別ならば、社会的に望ましい帰結の申告を好むと仮定する。この仮定において、各個人に上述のメカニズムが様々な社会目標を二重遂行することを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度の目標は、以下のように3つあった。(1):現実的メカニズムを用いて、様々な社会目標がナッシュ均衡と無支配ナッシュ均衡による二重遂行可能であることを示す。(2):耐戦略性を満たす社会目標を特徴付ける研究を、先行研究より現実的なモデルのもとで行う。(3):学会などで得られたコメントを基にして、査読付国際学術雑誌に投稿する。
(1)(3): 現実的メカニズムを用いたナッシュ均衡と無支配ナッシュ均衡による二重遂行可能性に関する研究は、University of RochesterのWilliam Thomson教授のもとで、私がvisiting studentとして学んでいる間に得られたコメントを中心に論文としてまとめ、査読付国際学術雑誌Economics Lettersに投稿した。また、associate editorとanonymous reviewerのコメントをもとに再度修正し、2018年7月3日に同雑誌において受理された。2018年7月10日にオンラインで公開されている。(2)(3):先行研究では2つの帰結のみが存在する環境で分析されていた。そこで、2つ以上の帰結が存在する環境を考えるが値域が2つの帰結のみである社会目標について分析する。このことより、より多くの応用例が考えられる。このモデルのもとで、耐戦略性を満たす社会目標を特徴づける研究を進めた。また、学会などで得られたコメントを基にして、Discussion paperとしてまとめた。現在は、査読付国際学術雑誌に投稿し、査読中である。
以上より、概ね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
研究目的2に従い、遂行問題について以下2つの研究を進める。
他人の合理性に関する情報の階層構造について、深い構造を持つことは難しいことが観察されている。そこで、少なくともある一定数の他人が合理的な戦略を取らないことを想定して、各個人が行動することを考慮した均衡概念を新たに考える。この均衡概念に関する遂行を新たに定義し、遂行可能な社会選択関数の特徴づけを行なう。この研究に関して、国内外の学会・セミナーで発表し、学会等で得られたコメントを基にして、査読付国際学術雑誌に投稿する。
セカンドプライスオークションとせり上げオークションどちらにおいても、真の申告は支配戦略である。しかし、実験において、その戦略はせり上げオークションの時の方がセカンドプライスオークションの時よりも多く観察された。これは、せり上げオークションにおいては、この戦略が"明らかな"支配戦略であるからと考えられる。この結果を考慮し、"ソロモン王のジレンマ"という問題において提唱されたメカニズムである、Miharaメカニズムの修正を行う。この研究について、謝金を支払って、実際にメカニズムを使用していただき、理論どおりに人々は行動するのか実験する。
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