私の研究目的は,「遂行理論に関して実験経済学的にアプローチし,より現実経済に近い理論を構築する」ことである.目的達成のための方法として,以下の2つを行った.1つ目は,各個人について現実的に持ちうる選好を仮定する.2つ目は,実験結果に従って,どのように人々が戦略をとっているか考慮して遂行理論を研究する.これに関して,以下のような研究を行った. まずは,遂行性について述べる.制度設計者は,ある社会目標を達成しようと考えている.しかし,制度設計者は各個人の選好を観察することができない.そこで,制度設計者は各個人の申告できるメッセージ集合を定義し,また申告されたメッセージをもとにどのように帰結を選ぶかを定義する.この方法を「メカニズム」と呼ぶ.制度設計者は各個人がある均衡概念に従って行動すると考える.制度設計者は,各選好の組に対して,その均衡概念のもとで得られる結果の集合が社会的に望ましい帰結の集合と等しくなることを目指す.これを,社会目標を「均衡概念のもとで遂行する」と呼ぶ. 2019年度に行った研究は以下の4つある.(1)ナッシュ均衡と無支配ナッシュ均衡という2つの均衡概念による遂行問題について,社会目標の遂行可能性に関する十分条件を示した.(2)複数の完全分割財の配分問題について単純でかつ公平なメカニズムを設計し,人々が無羨望な配分をナッシュ遂行可能であることを示した.(3)数直線上から1つの公共施設を建設する場所を決める問題について,耐戦略性を満たすルールが公共施設を建設する場所をどのように決めるかが明らかな「閉じた」特徴づけを行なった.(4)ソロモン王のジレンマを一般化した非分割財をお金の支払いなくもっとも財に対する評価値の高い個人に割り当てる問題について,先行研究のメカニズムを修正したメカニズムを提案し,理論的な差を実験によって比較した.
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