今年度は、ロバート・モリスの作品制作においてコレクターのジュゼッペ・パンザがどのような役割を果たしたのかを調査した。7月で特別研究員を途中辞退したため、夏に予定していた海外での調査は行うことができなかったが、5月には日本の美術館図書館で資料調査を行った。美術館図書館の資料に加え、昨年度の海外出張で得た書簡などの分析をもとに、単なる影響論に留まることなく、モリスの作家像を問い直すための糸口を探った。具体的には、モリスの初期作品の再制作、作品制作過程におけるパンザの権限、そして両者の芸術観の側面から、パンザが作家の作品制作において果たしていた役割について検証した。 その結果、モリスが作品の同一性に拘泥せず、パンザの要望に応じて作品の質を変化させていったことが分かってきた。また、同時代の周辺の作家と比較して、モリスが作品の複数性やバリエーションに関して寛容であったことを明らかにし、モリスの作品がもともとコレクターの要望に応えやすい性質を持っていただけでなく、四半世紀にも及ぶパンザとのやりとりの中で、自らの作品に複数性、再構成可能性、素材の不確定性などの性質を見出だし、与えていったのではないかと結論付けた。すなわち、モリスにとって作品は1つの決まった姿を持っているべきものではなく、不確定な要素を代入可能な変数を有するものであり、状況によってその素材や外観を変化させることができるものであった。パンザも例に漏れず、コレクターは作品の同一性やオウセンシティーに価値を見出すが、モリスはこれらを軽視していたからこそ、コレクターと協調することができたと言える。
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