研究実績の概要 |
今年度は、前年度の結果を元にAMP-activated protein kinase (AMPK) を事前に活性化することで、クマムシの乾燥耐性を向上させることが出来るかどうか検証を行った。間接的または直接的なAMPK活性化剤に浸漬したクマムシ (Hypsibius exemplaris) の乾燥耐性への影響を検討し、間接的なAMPK活性化剤のみがクマムシの乾燥耐性を向上させることを示した。使用した間接的なAMPK活性化剤はミトコンドリア複合体Ⅰの阻害剤であることから、今回観察されたH. exemplarisの乾燥耐性向上は、AMPKの活性化によるものではなく、ミトコンドリア複合体Ⅰ阻害による可能性が考えられた。その場合、細胞内の酸化ストレス状態が変化している可能性が高い。そこで次に、間接的活性化剤で処理したクマムシの細胞内GSH/GSSG比の測定を行った。しかし、1ロットあたり2,000匹のクマムシを用いたにも関わらず、GSSG濃度は測定範囲を下回り、値を得ることが出来なかった。最後に、乾燥耐性向上メカニズムの一端を明らかにするために、間接的活性化剤で処理したクマムシのホールプロテオミクスを行い、未処理の対照群と比較して発現レベルが有意に変化したタンパク質を4種同定した。これらのタンパク質は間接的活性化剤処理によるクマムシの乾燥耐性向上に関与している可能性が考えられる。 当初の仮説とは異なる結果となったが、クマムシの乾燥耐性を向上させる化合物を同定したのは本研究が初めてである。今後はこの化合物の作用機序をより詳細に調べることで、クマムシの乾燥耐性機構を明らかにしてゆく。
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