本研究課題では、多数の層のオミックスデータを取得し、それらを統合的に解析することで、オッズは小さくとも真にナルコレプシーに関連する要因を同定することを目的としていた。前年度までに血液、脳のサンプルを用いた網羅的なDNAメチル化解析を実施し、各々の解析において候補遺伝子を同定していた。今年度は、それらの結果を比較することで、脳組織や血液細胞特異的な遺伝要因、並びに両組織において共通して関連を示す要因について検討を行った。その結果複数の脂肪酸代謝に関わる遺伝子領域のメチル化が、両組織において共に関連を示すという結果が得られ、ナルコレプシーにおける脂肪酸代謝の重要性が示唆された。 そこで今年度はさらに患者・対照群の脳脊髄液を用いた網羅的なメタボローム解析を実施した。その結果、ヒスチジンがナルコレプシーと最も強い関連を示し(P = 4.0 ×10-4)、その他22の代謝物質が有意な関連を示した。それらの代謝物質を用いたパスウェイ解析の結果、糖原性アミノ酸の代謝に関わるパスウェイが検出され、ナルコレプシーにおいて脂肪酸代謝が障害されていることに対する代償的な変化である可能性が示唆された。 また今年度はCD4+T細胞とCD8+T細胞における網羅的なメチル化解析も実施した。その結果、全血から抽出したDNAを用いてすでに実施していたメチル化解析の結果と同様に、患者群における全体的な低メチル化傾向が見られた。また、CD8+T細胞においては、CCR5やCCL5といったケモカイン関連遺伝子領域上流のメチル化の関連が同定された。 以上の結果から、エピゲノムの観点からも免疫系ならびに代謝系の異常が発症機序に関与することが支持されたと共に、メチル化が全体的に低くなることも疾患の発症に寄与している可能性が示唆された。
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