研究課題
本研究の目的は、カメルーンの狩猟採集民バカと農耕民ジメのそれぞれの子ども-大人間相互行為における子どもの言語使用実践に注目し、発話の責任主体としての子どもの発達を前提とする、従来の社会化論を再考することにある。平成29年度においては、実施計画にも定めていた通り、研究課題関連文献のレヴューと、投稿論文・著書の執筆をおこなった。本年度の主な成果は、以下の通りである。バカの子ども達の日常生活を概説し、伝統知識をめぐる彼らの学習過程の一端を記述した論考を出版した(園田浩司. 2017. 「森との向き合い方を学ぶ カメルーンの狩猟採集民バカ(一)」清水貴夫・亀井伸孝編『子どもたちの生きるアフリカ 伝統と開発がせめぎあう大地で』昭和堂. pp. 114-127)。これまでに収集した観察記録等に基づき、調査項目のひとつであった「子どもたちのライフコースの把握」について、本書でその一部を整理した。また、コンゴ盆地狩猟採集社会の子ども研究者らと共同で論文を執筆した(Sonoda et al., 2018. Cultural Transmission of Foundational Schemas among Congo Basin Hunter-Gatherers. African Study Monographs Supplementary issue, 54: 155-169.)。本論文では、コンゴ盆地狩猟採集社会の大人と子ども間相互行為実践に注目した。同一発話の共有を含むいくつかの特徴は、平等主義やシェアリングといった、コンゴ盆地狩猟採集社会のスキーマと強く結びついているのではないかと論じた。他方、ヒエラルキー、不服従への処罰、子どもの学習内容の構造化といった学校教室における相互行為実践に関わるスキーマとは必ずしも一環しないことを指摘し、子どもの自立学習やイニシアチブを支援する、前者のような教授法が学校教室にも求められる、と提案した。
2: おおむね順調に進展している
平成29年度は本研究課題遂行の初年度であったため、まずは研究環境の基礎作りを念頭に置いた。現在研究代表者は、大阪大学文学研究科の研究環境に慣れつつある。具体的には、文学研究科の受入研究者マシュー・バーデルスキー氏をはじめ、言語文化研究科の研究者らが参加するデータ・セッションに積極的に参加し、意見交換をおこなった。また本年度は、関連文献の渉猟や、会話分析セミナーへの参加などを通して、研究課題の理論的方向性の精緻化にも取り組んだ。最後に研究実績の概要で報告した通り、学術雑誌の論文、著書として研究成果の一部を公表した。
平成30年度においては、研究代表者がこれまでに収集したデータについて、引き続き大阪大学文学研究科、言語文化研究科の研究者らとデータ・セッションをおこない、分析を進めていく。これらのデータは、現在執筆している投稿論文(英文)に掲載予定である。また6月に弘前大学で開催される日本文化人類学会、7月にマレーシア・ペナンで開催される狩猟採集社会会議(CHaGS-12)への参加を予定している。研究代表者はこれらの学会で発表し、研究内容の点検をおこなう。さらに、学会参加者の文化人類学者、狩猟採集民研究者らと、今後の共同研究について意見交換も予定している。最後に、前年度に収集できなかったデータについて、現地調査を通して収集する予定である。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件) 図書 (1件) 学会・シンポジウム開催 (1件)
African study monographs. Supplementary issue
巻: 54 ページ: 155-169