研究課題
本研究は、日本産野生由来近交系マウスMSM/Ms系統における発がん抵抗性遺伝子座Stmm3の原因遺伝子の同定を目的とした。我々はこれまでの研究から、第4番染色体上に後期良性腫瘍(直径6 mm以上の腫瘍)における抵抗性遺伝子座としてSkin tumor modifier of MSM 3(Stmm3)をマップすることに成功している。また、サブコンジェニック系統を用いたコンジェニックマッピングの結果、Stmm3候補領域を約5 Mbに絞り込むことが可能となった。さらに、Stmm3候候補領域内にはがん抑制遺伝子Cdkn2a/p19Arfが存在していた。そこで、候補遺伝子と考えられたp19Arfに着目し、p19Arfノックアウトマウスを用いたDMBA/TPA多段階皮膚発がん実験を行い個体レベルの解析を実施する。また、p19Arf発現培養細胞を用いたin vitro解析を行いp19Arfに存在する非同義置換多型の機能解析を行った。本年度は、個体レベルにおけるp19Arf の機能解析を行うため、MSM/Ms系統およびFVB/N系統の遺伝的背景を持ったp19Arfノックアウトマウスを用いてF1個体を作製し、各アレルが欠失したp19Arfヘテロノックアウトマウスを作製した。作製したマウスを用いDMBA/TPAを用いた発がん実験を行なった結果、p19Arf MSMアレルノックアウトマウスにおいて、より強い抵抗性を示す可能性が考えられた。さらに、MSM型とFVB型の遺伝子多型を導入したp19Arf発現培養細胞株をそれぞれ作製しin vitro解析を実施した。その結果、p19Arfの多型が皮膚腫瘍形成抑制に関与する可能性を、発現培養細胞株を用いたin vitro解析、および個体レベルの解析において示した。またこれらの結果については、本年度の第76回日本癌学会学術総会等で発表を行った。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究は、DMBA/TPA多段階皮膚発がんモデルを用い、日本産野生由来近交系マウスMSM/Ms系統における発がん抵抗性遺伝子座Stmm3の原因遺伝子の同定を目的としたものである。本年度の計画としては、各アレルが欠失したp19Arfヘテロノックアウトマウスを作製し、DMBA/TPA多段階皮膚発がん実験を行い、p19Arf発現培養細胞株と作製したマウスを用いてp19Arfに存在する非同義置換多型の機能解析を実施する計画であった。発がん実験の結果、p19Arf MSMアレルノックアウトマウスにおいて、良性腫瘍発症率が増加し、扁平上皮がん発症率の増加も認められ、腫瘍を用いた組織学解析からもp19Arf MSMアレルがより強い発がん抵抗性を示す可能性を示めした。このように、p19Arfヘテロノックアウトマウスを用いた発がん実験において、当初の計画以上に結果を得られることができた。また、NIH/3T3細胞を用い、MSM型とFVB型の遺伝子多型を導入したp19Arf発現培養細胞株をそれぞれ作製しin vitro解析を実施してきた。その結果、MSM型p19Arfの方がFVB型p19Arfと比較し、TPA処理後のタンパク質の発現レベルが上昇し、FACSによる細胞周期解析からTPA処理によりMSM型p19Arfの方が、p19Arfの主ながん抑制機能であるG1期停止をより強く誘導することが認められた。さらに、本研究において作製したp19Arf MSMアレルノックアウトマウスの皮膚から細胞を単離し、同様の解析を行った。その結果、p19Arf発現培養細胞株を用いた解析と同様の結果が得られた。これらの結果から、p19Arfの多型が皮膚腫瘍形成抑制に関与する可能性を、発現培養細胞株を用いたin vitro解析、および個体レベルの解析で示した。また、CRISPR/Cas9 を用いて完全なMSM/Ms系統の遺伝的背景を持ったp19Arfおよびp16Ink4aノックアウトマウスの作製に成功し、発がん実験を始めることもできた。以上の結果から本年度は期待以上の進展があったと考える。
本年度は、p19Arfヘテロノックアウトマウスとp19Arf発現培養細胞株を用いた解析から、p19Arfの多型が皮膚腫瘍形成抑制に関与する可能性を示した。今後はMSM型p19ArfとFVB型p19Arfのタンパク質の安定性の違い等、より詳細な解析を行いp19Arfに存在する多型の機能解析を実施する。解析方法としては、MSM型p19ArfのTPA処理後のタンパク質の発現レベルが上昇したことから、p19Arf が機能的に依存しているp53遺伝子の活性化、関連経路に存在する遺伝子の発現、p19Arfと結合することによりp53遺伝子の転写活性を上昇させるMDM2との相互作用等を調べ、MSM型p19Arfのタンパク質発現レベルの上昇がどのようにがん抑制に繋がるのか検討していく。また本年度行った解析から、p19Arfヘテロノックアウトマウスを用いた解析から、p19Arf MSMアレルノックアウトマウスがより強い発がん抵抗性を示した。しかし、p19Arfとエクソン共有しp16Ink4aがコーディングされていることから、p16Ink4aの影響も検討しなくてはならない。そこで、本年度作製したp19Arfおよびp16Ink4aノックアウトマウスを用いた発がん実験の経過観察を行い、それぞれの遺伝子の影響を検討していく。さらに、ヒトアソシエーションスタディーの結果から得られたSNP情報と本研究において得られたSNPの情報を統合し、ヒトがん発症との相関を検討し、ヒト発がんに関与する原因遺伝子の同定に繋げていく。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (6件)
Scientific Reports
巻: 7 ページ: 11208
10.1038/s41598-017-11561-x.
Cancer Science
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