本研究は、日本産野生由来近交系マウスMSM/Ms系統における発がん抵抗性遺伝子座Stmm3の原因遺伝子の同定および、候補遺伝子と考えられたp19Arfに存在する非同義置換多型の機能解明を目的とした。候補遺伝子として考えられたp19Arf はp16Ink4aとエクソンを共有しコ-ディングされている。そこで、CRISPR/Cas9により作製した16Ink4aノックアウトマウス、およびp19Arfノックアウトマウスを用い、DMBA/TPA多段階皮膚発がん実験を行い、原因遺伝子の同定を試みた。さらに、p19Arfノックアウトマウス(MSM/Ms系統およびFVB/N系統の遺伝的背景を持ったマウス)とp19Arf発現培養細胞(NIH/3T3細胞)を用いたin vitro解析を実施することで、p19Arfに存在する非同義置換多型の機能解析をより詳細に行った。また、ヒトアソシエーションスタディの結果と本研究の解析結果から得られた情報を統合することにより、ヒト発がん関連遺伝子の同定も試みた。発がん実験の結果、p19Arf MSMアレルノックアウトマウスはコントール群と比較し、良性腫瘍発生数が増加した。一方、p16Ink4a MSMアレルノックアウトマウスはコントール群と良性腫瘍発生数がほとんど変わらなかった。これらの結果から、p19Arf MSMアレルがより強い発がん抵抗性を示し、p19Arfが原因遺伝子の有力候補と考えられた。また、p19Arf発現培養細胞株を用いた解析から、TPA処理後において、FVB型p19Arf は細胞質に強く局在しているのに対し、MSM型p19Arf は核に強く局在し、MSM型p19Arf発現培養細胞の方がp53の発現レベルおよび標的遺伝子の発現レベルが増加していた。これらの結果から、p19Arf MSMアレルがp53経路の活性化を誘導し、皮膚腫瘍形成を抑制している可能性が考えられた。さらに、国内患者数万人規模のサンプルを用い、ヒトのがん発症との相関を調べた。その結果、ヒトCDKN2A周辺領域のSNPにおいて、乳がんおよび肺がん発症と相関することが示唆された。
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