研究課題
硬X線分割・遅延ユニットの課題であった絶対遅延時間の高精度保証手法として,分割X線パルスの可干渉性を利用した遅延時間ゼロの決定を利用することを検討した.X線自由電子レーザー施設SACLAにおいて,本ユニットにより生成した2つのパルスを干渉させ,その縞のビジビリティが最大となるよう光路長差を調整することで,数フェムト秒精度で遅延時間ゼロを決定した.精密リニアステージによって光路長差(相対遅延時間)は十分高精度に制御可能であることから,フェムト秒精度における時間制御が可能であることが示された.続いて,本ユニットの実証実験として,X線干渉法を用いたX線パルスの時間特性評価を行った.生成した2パルス間の干渉像のビジビリティを取得し,その遅延時間・周波数差依存性をそれぞれ取得することで,X線パルスのコヒーレンス時間とパルス幅を推定した.時間精度保証により本ユニットを実用段階まで発展させただけでなく,超高速現象観察実験において不可欠な光特性の解明にも成功した.また,これまで行ってきた大気圧プラズマによるエッチング法に基づくチャネルカット結晶内壁の無歪み化加工は,狭いチャネル幅へは適応できず汎用性の低さが課題であった.加工装置系を見直し綿密に加工特性を調査することで,加工精度を維持したまま半分以下への電極小型化が可能であることを突き止め,実際に小型電極を用いて優れた結晶性,表面平坦性が得られることを確認した.本手法を用いて,SACLA用のチャネルカット結晶汎用モノクロメータの内壁面に対する無歪み化加工を施した.大型放射光施設SPring-8においてX線トポグラフィにより評価したところ,加工前後において明らかな反射特性の改善が見られた.本成果によってX線実験における常用素子であるモノクロメータの高品質化が達成され,X線分析技術全体の高度化に寄与した.
2: おおむね順調に進展している
交付申請書に記した手法によって硬X線用分割・遅延ユニットの実用化における最後の課題であった時間精度保証を達成し,最終年次に実施するフェムト秒超高速現象観察実験に向けた準備を計画通り完了させている.更に,光特性診断という形で既に本ユニットの応用実験も繰り上げてスタートさせており,それに関して学術論文も発表済であることから,進捗は極めて順調であると言える.一方,結晶デバイス加工に関しては,加工系の改善により適用可能な結晶デザインの範囲拡大を図り,加工特性調査によって理想とする表面状態が得られる最適解を導出するまでは計画通り終えている.ただ,極狭溝の内壁表面の測定方法の構築には想定より時間がかかったため,年次計画の順序を一部入れ替え,まずは特別な測定法を必要としないようなデザインのチャネルカット結晶の作製に取り組んだ.全体としての進捗の遅れはほぼ無くなり,かつ上記加工手法改善の効果を同年度中に確認したことで,迅速に新たな課題を発見し加工法開発プロセスへとフィードバックすることができた.
実用化段階に至った硬X線分割・遅延ユニットを用いて超高速X線原子挙動観察を実施する.フェムト秒からナノ秒という広範囲な時間領域を探索可能であるという特長を活かし,ピコ秒スケールの挙動であると言われている原子振動(フォノン)を観察対象とする.例えば,X線励起後の相転移現象に対するフォノンとの相関からのアプローチ,または水分子の自発的な揺らぎを捉えることによるその特異な物性の解明を検討している.結晶デバイス加工に関しては,放射光施設の加速器分野において極狭チャネル幅を有する高品質結晶素子の需要があることが判明した.狭溝の内壁表面の測定方法を構築するとともに,更なる電極の小型化・加工の高精度化を図り,従来の加工・測定法ではアクセスできない内壁面の高精度無歪み化を達成する.これまで開発してきたプラズマエッチング法では電極と加工対象表面との間に相当量の空間を必要とするため,目標とするチャネル幅の小ささを考慮すると電極の小型化だけでは対応できない可能性がある.その対応策としては具体的に,狭チャネルへの電極挿入を必要としないプラズマジェット加工法,または細ワイヤを用いた金属アシストエッチング等別の加工技術の採用を検討しており,それらの加工特性調査も並行して進めていく.
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 4件) 備考 (1件) 学会・シンポジウム開催 (1件)
Journal of Synchrotron Radiation
巻: 25 ページ: 20-25
10.1107/S1600577517014023
IUCrJ
巻: 4 ページ: 728-733
10.1107/S2052252517014014
http://www-up.prec.eng.osaka-u.ac.jp/index.htm