研究課題/領域番号 |
17J01673
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
広瀬 真 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | コヒーレントX線回折イメージング / X線タイコグラフィ / 位相回復 / X線吸収分光法 / 固体触媒 / 酸素吸蔵放出材料 |
研究実績の概要 |
今年度は,走査型コヒーレントX線回折イメージングであるX線タイコグラフィとX線吸収分光法を組み合わせたX線スペクトロタイコグラフィの計算手法の開発と,実固体触媒材用測定への応用研究を図った.硬X線領域における試料のX線吸収微細構造(XAFS: X-ray Absorption Fine Structure)は極めて微弱であり,計算精度の観点において従来の解析法では正確に再構成することが困難であった.この問題を解決するために,エネルギー毎に再構成された試料の吸収像と位相像の間に成立するKramers-Kronigの関係式に基づく関係式を導出し,これを拘束条件(KKR拘束)として利用する新たな反復的位相回復アルゴリズムを作成した.SPring-8で行った実証実験では,本解析法の利用によって硬X線領域において,空間分解XAFSスペクトルを取得することに成功した. 次に,実試料観察として自動車排ガス浄化触媒システムにおいて利用される酸素吸蔵・放出材料Ce2Zr2Ox(CZ)粒子にPtナノ粒子を担持させたPt/CZ試料の酸化状態イメージングを行った.CZは酸素を吸蔵するとCZ8となり,逆に酸素を放出するとCZ7に変化する.酸化中途状態であるPt/CZ7.6粒子を測定したところ,粒子表面は酸化していたが,粒子中心は還元されたままであった.さらに,Pt/CZ7.6粒子に関してCe原子量分布像と価数分布像の二次元相関解析を行ったところ,4種類の酸素拡散様式が確認された. さらに,これまで開発してきたスペクトロタイコグラフィをCT測定と組み合わせた三次元化学状態イメージング測定装置を開発し,酸素吸蔵途中のCZ粒子を測定した,その結果,三次元的な酸化状態分布が明瞭に可視化され,酸化過程において準安定状態CZ7.5相が形成させていることが示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度はまず,当初の予定通り,スペクトロX線回折イメージングにおいて反復的位相回復計算の収束性向上を指向したアルゴリズム開発に成功した.エネルギーに対する試料の分散関係に注目した拘束条件を導出し,SPring-8において行った実証実験においては作製したMn酸化物薄膜のXANESスペクトルを再構成することに成功した.さらに,応用研究として自動車排ガス浄化触媒材料を測定した.酸素拡散に関する新たな知見として,酸素吸蔵中において4種類の酸素吸蔵様式が存在することに成功した.本結果はその重要性から,化学系論文の権威の一つであるAngewandte Chemie International Editionに採択され,注目論文として取り上げられた.また,スペクトロX線回折イメージングをCT測定と組み合わせることで,粒子内部の化学状態分布を高分解能で三次元可視化することに初めて成功した. また,国内外の多くの学術会議において研究発表を行った.特に,SPIE2017では35歳以下の若手研究者を表彰するX-ray Nanoimaging Young Investigator Awardを、JSR2017では学生発表賞を受賞するなど高い評価を受けた.他にも,生産技術振興協会の平成30年度上期海外論文発表賞にも選出された. このように本年度は,手法開発から応用研究を一貫して行っており,国際的に権威のある二つの雑誌に研究成果が採択され,学術会議においても評価していただいた.以上を踏まえると,本研究はおおむね順調に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
今年度は,X線スペクトロ回折イメージングの測定において,化学状態を識別可能な吸収端近傍構造を再構成することに成功した.さらに,高エネルギー領域まで測定エネルギーを拡張すると,原子の配異数や結合長等に関する情報を有する広域吸収端微細構造(EXAFS)のナノスケール再構成にチャレンジできる.このためには,従来法よりもさらに信号対雑音比の高い測定系を構築することが必要である.そのために我々は,蛍光X線検出器(SIlicon Drift Detector)の導入を検討している.ここで,試料が薄い場合は,蛍光X線強度のエネルギー依存性は,X線吸収スペクトルに変換することを利用する.そして,SPring-8における放射光実験では,蛍光X線を光軸垂直面内に配置することで,高い信号対雑音比でX線吸収スペクトルを取得することが可能になる.そしてEXAFSスペクトルから動径分布関数を導出し,酸酸素吸蔵材料の化学状態に加えて酸素吸蔵に伴う原子間距離の変化などを高分解能可視化する予定である. また,in-situ測定へも展開したいと考えている.試料加熱ステージと,マイクロガス流路を備えた試料ホルダーを作製し,測定中の試料の化学状態を操作できるシステムを構築する.そして,さまざまな反応時間における試料を測定し,試料構造,化学状態,原子間距離および配異数の間の相関解析を行うことによって,酸素吸蔵特性の発現に寄与するパラメータを整理することで,酸素吸蔵特性向上のために真に必要な知見を獲得することを目指す. このように,これまでに確立した解析法・測定法をさらに拡張しすとともに,試料環境を制御可能な測定システムを構築することによって,典型的な不均一系である固体触媒材料の不均一な反応性の解明に迫る研究を展開したい.
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