研究実績の概要 |
本年度はSmoothed Particle Hydrodynamics法に岩石の破壊及び破壊後の摩擦の効果を導入した数値計算コードを用いて小惑星の衝突破壊を再現し, 形成される天体の形状を調べた. 特に形状が効率よく変化すると期待される等質量衝突の計算を主に実行した. 衝突させる小惑星の半径は典型的なものである50kmに固定し, 小惑星の物性は玄武岩のものを使用した. 衝突速度を2体脱出速度 (約60m/s) 程度からその10倍程度まで, 衝突角度を正面衝突に近いものから45度まで変化させた数値計算を様々に実行し, 形成された最大天体の形状を調べた. その結果, 等質量衝突では衝突速度・角度に応じて球形状・頭が二つある形状・平たい形状・細長い形状・半球形状が形成されることがわかった. また条件によっては中間軸/長軸比が0.2程度の極めて細長い形状や, 短軸/長軸比が0.5を下回るほど平たい形状も形成された. 現在の小惑星帯の衝突速度は平均5km/s程度であるが, この速度は半径50kmの小惑星の2体脱出速度よりも十分に大きく, この速度の等質量衝突は大規模破壊を引き起こす. しかしながら我々の大規模破壊のシミュレーションでは球形状か頭が二つあるような形状しか形成されなかった. 一方で衝突天体が十分に小さい場合には大規模破壊にならないが, 同時に小惑星の一部分しか破壊されないため, 大きな形状変形は伴わない. 従って, 軸比が0.5を下回るほどいびつな形状は2体脱出速度程度の等質量衝突でできた可能性が高い. そのような衝突条件は木星形成前の力学的に冷たい環境ならば実現される. 従って, 軸比が0.5を下回るほどいびつな形状を持つ小惑星は始原的である可能性が高いと考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
本年度は小惑星の等質量衝突による形状形成を主に調べた. 今後は衝突天体がより小さく質量差がある衝突によって形成される形状についても調べていく. 衝突天体の質量は衝突される天体の質量から少しずつ変化させ, 等質量衝突の結果と質量差が大きい衝突の結果を滑らかに繋ぐように調べ上げていく. 同時に大規模破壊の高解像度シミュレーションも実行し, 形成される形状の分布だけではなく, 質量分布や自転速度分布, さらにはそれら分布の衝突条件依存性も明らかにしていく. 上記の課題には大規模なパラメータサーチ及び高解像度シミュレーションが必要である. このような計算は国立天文台天文シミュレーションプロジェクトのスーパーコンピュータであるXC50システムを使用して実行する. 私はすでにXC50システムの上位の利用カテゴリであるカテゴリAを取得しており, パラメータサーチや高解像度シミュレーションを実行することが可能な状況になっている.
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