研究課題/領域番号 |
17J01738
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
濱崎 英臣 九州大学, 大学院医学系学府, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | 神経変性疾患 / 画像解析 / 免疫組織化学染色 / RNA binding protein |
研究実績の概要 |
我々は剖検脳の組織切片において、細胞単位での機能的な評価を可能にするタンパク質を免疫組織化学染色に評価する手法を模索している。これまでに、作製したプログラムを用いて、形態学的な情報を用いて神経細胞とグリア細胞別個に解析し、hnRNP A1の神経細胞における陽性率の解析を行った。 非神経変性疾患の症例では、頭頂葉などの後頭葉以外の検討部位における神経細胞の核は90%以上がhnRNP A1陽性であった。一方、後頭葉では陽性率が30~90%と症例間でばらつきが見られた。 前頭側頭型認知症(FTLD)症例では、前頭葉の大型神経細胞の核のhnRNP A1免疫染色が著明な低下が観察された。血流低下の著明な前頭葉ではhnRNP A1の核の陽性率が40%~50%程度であり、血流低下の著明でない検討部位の陽性率(65~90%)と比して低下していた。 Lewy小体型認知症(DLB)症例は脳全体的にhnRNP A1の神経細胞の核での陽性率が低下していた。血流低下が著明でない前頭葉でも神経細胞の核の陽性率は60%前後、画像上血流低下がはっきりしている後頭葉では陽性率が5%~30%と著明な脱落が観察された。 FTLD 症例の前頭葉やDLB症例の後頭葉では脳血流量が低下することがSPECTによる画像解析で知られているが、病理剖検標本でもそれぞれの前頭葉や一次視覚野周囲で神経細胞におけるhnRNP A1の発現が著明に低下していることを見出した。このことは個々の神経細胞の機能状態を把握する手段として、RNA代謝から見る手法が有用であることを示すものと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書に記載した項目ごとの進捗状況と課題を記す。 1 症例の選択__予定通り、非変性疾患症例と疾患症例の前頭葉、側頭葉、頭頂葉、後頭葉領域の組織標本の作製を行った。またDLBの症例3例も追加した。 2 細胞機能の状態を可視化できる分子の候補の絞り込み、検討部位の病変の確認__細胞機能の状態を可視化できる分子の候補として11種の抗体を使用し免疫組織化学染色を行い、各種病変の有無をH&E染色、KB染色、免疫組織化学染色で確認した。hnRNP A1免疫染色の変化が顕著であり、非神経変性疾患症例と比してFTLD、DLBの関心領域における免疫反応性の低下が見られた。神経細胞とグリア細胞の核を区分して解析可能なプログラムの開発を行った。問題点として、現時点では画像解析の際に核染が染まりにくい症例では認識率が悪い場合があり認識できず、手動での補正を加えている部分があることから、現在プログラムの改良を行っている。 3 形態学的な評価__作製したプログラムを使用し、形態学的な情報を用いて神経細胞とグリア細胞別個に解析し、hnRNP A1の神経細胞における陽性率の解析を行った。この研究により、DLB病理剖検標本の一次視覚野周囲で神経細胞の核におけるhnRNP A1の発現が著明に低下していることを見出した。課題として、非変性疾患症例でもhnRNP A1が脱落している症例があるため、DLB以外の症例を増やし、病理剖検標本における正確なhnRNP A1の陽性率を算出することを予定している。
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今後の研究の推進方策 |
第一に、従来の予定に従い非変性疾患症例数の増加を行い、hnRNP A1の正常加齢における陽性率と加齢における変化、性差による違い、死後時間の影響を検討する。これと並行して対象疾患(FTLD、DLB)症例数の増加を行い、疾患における各領域での陽性率などを算出するとともに、必要な解析プログラムの改良を重ねていく。 また、検討する疾患を拡大し、hnRNP A1の低下が疾患特異的なものであるか、特定の変性産物により惹起されるものであるのか検討を行う。他のRNA代謝に関連するタンパクの変化を検討し、今回検討したhnRNP A1特異的な変化であるか、属するファミリー全般の変化であるかを確認する。
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