我々は剖検脳の組織切片において、細胞単位での機能的な評価を可能にするタンパク質を免疫組織化学的に評価する手法で探索している。 昨年までの研究で、我々はLewy小体型認知症(DLB)症例の後頭葉など、脳血流量が低下することがSPECTによる画像解析で知られている領域でhnRNP A1の核の染色が低下していることを明らかにした。このことから、個々の神経細胞の機能状態を把握する手段としてRNA代謝から見る手法が有用であることを示すものと考え、多疾患における領域別のhnRNP A1陽性率を検討した。また他のhnRNPについても追加検討した。DLBの症例数を増やすとともに、神経細胞内のtau蓄積の影響を検討するためにPick病の症例を、α-synucleinの影響を検討するためにsynucleinopathyの代表疾患の一つであるParkinson病(PD)症例を追加検討した。追加したDLB症例では昨年と同様、血流低下の強い後頭葉でのhnRNP A1陽性率低下がみられた。Pick病では血流低下がみられる領域や神経細胞内にPick嗜銀球も有する細胞でもhnRNP A1の脱落は見られなかった。PDでは後頭葉で著明に低下する症例も存在したが、症例によっては神経細胞だけでなくオリゴデンドログリアも陽性になるなど症例間のばらつきが大きく一定した傾向は得られなかった。hnRNP DでもhnRNP A1とほぼ同様の結果を示した。 これらの結果より、hnRNP A1およびhnRNP Dはsynucleinopathyによる神経活動の低下を良く反映する傾向にあり、synuclein関連疾患の神経細胞の機能的な評価を剖検脳の組織切片で行う際に有用であることを明らかにした。
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