研究課題
まず、以下の2つの研究が論文として受理されました。1) テティスの地形形成:土星の衛星であるテティスには、巨大な渓谷が存在していますが、これがどのようにして形成されたかについては分かっていません。我々は、テティスの渓谷は軌道が変化したことによって衛星が変形し、それによって生じた応力で表面に亀裂が入ったのではないかと考え、軌道進化と応力の計算を行なったころ、応力の向きが渓谷の割れ目と整合的であるという結果を得ました。2) ディープラーニングによる火山灰の形状分類: 火山灰の形状は、噴火がどのように発生したのかを知る重要な手がかりとなりますが、噴火が起きた際、採取された灰を人間の目で迅速に分析するには限界があります。我々は、ディープラーニングによって火山灰の形状をすばやく分析できるようになることを目指し、採取した火山灰粒子の形状分類を行いました次に今年度からのテーマとして以下の2つに取り組みました。1)有機化学反応の経路探索手法の開発: 有機物の反応プロセスを考察することは、原始地球での大気進化やアミノ酸の合成に至るまで、地球惑星科学にとって極めて重要なテーマです。しかし、可能性のある反応経路を網羅的に調べた上で、重要な経路を決定するということは、実験的にも数値計算的にも簡単ではありません。我々は、有機物の結合状態を行列の要素で表し、モンテカルロ法を用いた経路探索手法の開発に取り組みました。2) 火星のRSL形成に関する考察: 火星の表面にはRecurrent Slope Lineae (RSL)と呼ばれる、アルベドの低い(暗い)帯状の模様が毎年出現していることが観測されています。今年度から火星における砂の湿り気の影響を見積もるためのシミュレーションや、地球で火星のRSLと似た地形を探すことを念頭に、機械学習による地形探索に取り組んでいます。
1: 当初の計画以上に進展している
当初は氷衛星や惑星のみを対象とした研究を計画していましたが、所属先の縁もあって、火山灰を機械学習を用いて分類する、原始地球の大気進化やアミノ酸の形成に関するシミュレーションを行うというような、惑星科学を超えた範囲の研究に取り組むことができました。現在、機械学習の理論やプログラムを用いて、火星と似た地形を地球上で探索するというテーマを行なっており、惑星科学以外で学んだことを本来のテーマにフィードバックさせるなど、いい方向に進んだと考えています。
来年度は、主に有機反応のシミュレーション手法の開発と、火星のRSL地形形成の2つを行なっていく予定です。これらのテーマは、惑星の活動というような惑星科学における研究テーマだけでなく、生命が存在できる環境の考察にも深く関わっており、本研究の目的とも合致しています。具体的な計画としては、アルデヒドやアンモニアといった、有機物の種類や分子数を増やして、ユーリーミラーの実験におけるアミノ酸形成の経路探索を行ったのち、エンケラドスの海における反応の考察へと応用していくことを考えています。エンケラドスの海では有機物が実際に観測されているため、内部でどのような有機反応が起きているか、さらにアミノ酸のような生命に必要な分子が形成される可能性はあるかなどの考察を行います。また、RSL形成の考察に関しては、DEMとよばれる粉体のシミュレーション手法を用いて、砂が乾いている場合と湿っている場合の2つで砂がどのように流れるのかのシミュレーションを行い、湿った砂が乾いたときに形成される流れで、火星のRSLの再現ができるかどうか、また、砂の摩擦係数や粒径の影響などを見積もっていく予定です。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 図書 (1件)
Icarus
巻: 319 ページ: 407-416
10.1016/j.icarus.2018.09.025
Scientific Reports
巻: 8 ページ: 8111
10.1038/s41598-018-26200-2