研究課題/領域番号 |
17J01799
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
沼澤 宙朗 大阪大学, 理学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 共形場理論 / AdS/CFT対応 / SPT相 / 複雑性 / 境界状態 |
研究実績の概要 |
本年度は、共形場理論(CFT)における境界状態に関わる研究を行った。境界状態はエンタングルメントを持たない状態のCFTにおける実現である考えることができ、AdS/CFT対応を通じて自明な時空と解釈される重要な量子状態である。 まず離散的な対称性と大きな微分同相の間に起こる量子異常(mixed global anomaly)と境界付き共形場理論(BCFT)との関係を調べた。本研究では、離散対称性と大きな微分同相不変性の間に量子異常が存在する場合においても同様な関係が成り立つかを調べた。その結果、Wess-Zumino-Witten(WZW)模型において離散対称性を群の中心に選び、この中心が前述の量子異常を持つ場合、その対称性を保つ共形不変な境界条件は存在しないことがわかった。 また現在、共形場理論(CFT)における量子複雑性に関連する研究を行い論文を準備している。CFT側の量子複雑性は、AdS/CFTの文脈ではAdSにおけるブラックホールの内部の情報を含んでいると考えられている。この量子複雑性は参照状態(reference state)と基本的な量子ゲート(gate set)の取り方に依存する。そこで、本研究では量子複雑性のreference stateを定める研究を行った。結果として、reference stateはCFTにおける共形不変な境界状態で与えられることがわかった。CFTでのエンタングルメントのない状態の実現を与えており、特にSusskindがreference stateとして提唱している状態と一致している。この一致を確かめられたことは大きな進展であると考えており、ブラックホールと量子カオスの関係の解明に知見を与えると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、まず離散的な対称性と大きな微分同相の間に起こる量子異常(mixed global anomaly)と境界付き共形場理論(BCFT)との関係を調べた。2017年、量子異常を持つ連続対称性を保つ共形不変な境界条件は存在しないことがJensenらによって発見された。本研究では、離散対称性と大きな微分同相不変性の間に量子異常が存在する場合においても同様な関係が成り立つかを調べた。その結果、Wess-Zumino-Witten(WZW)模型において離散対称性を群の中心に選び、この中心が前述の量子異常を持つ場合、その対称性を保つ共形不変な境界条件は存在しないことがわかった。この背後には、量子エンタングルメントの構造が関係していると考えられる。この発見は、エンタングルメントからの量子重力の構築を目指す上でも役に立つ知見であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
現在は共形場理論(CFT)における量子複雑性に関連する論文を執筆中である。CFT側の量子複雑性は、AdS/CFTの文脈ではAdSにおけるブラックホールの内部の情報を含んでいると考えられている。この量子複雑性は参照状態(reference state)と基本的な量子ゲート(gate set)の取り方に依存する。特に、AdSの幾何学量(余次元1の体積または作用積分)がAdS側での量子複雑性の対応物であるとSusskindらによって提唱されているが、この量と双対となるreference state及びgate setの取り方は知られていない。そこで、本研究では量子複雑性のreference stateを定める研究を行った。鍵となるのは幾何学量が0となるAdS側の幾何を定めることであるが、これは高温ブラックホールの軌道体(orbifold)を考えることで実現される。一方、これと双対となるCFT側の状態は共形不変な境界状態であると2013年にHartmanとMaldacenaによって提唱された。共形不変な境界状態は、CFTでのエンタングルメントのない状態の実現を与えており、特にSusskindがreference stateとして提唱している状態と一致している。この一致を確かめられたことは大きな進展であると考えている。
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