研究実績の概要 |
本年度は遺伝子改変マウスの作成や遺伝子改変ブドウ球菌の入手に日数を要した。そこで今後解析に用いるツールの作成に注力することにした。表皮剥脱毒素(ETA)を6xHisとHAで標識した組換えタンパク質を作成するために、組み換えプラスミドを大腸菌M15株に導入した。また、スフィンゴ脂質合成酵素遺伝子を欠損したコンディショナルノックアウトマウス(Sptlc2 CKO)を作出し、蛍光免疫染色により本マウスの表皮基底細胞ではSptlc2の発現が低下していることを確認した。 膿痂疹モデルマウス(Imanishi I et al. Vet Dermatol 2016)では、顆粒層に付着した黄色ブドウ球菌は表皮内浸潤した好中球を利用して皮内へ侵入することが知られている。そこで本年度は、菌体による好中球を誘導する分子機序を解析も併せて行った。好中球誘導に関わる菌体因子を明らかにするために、共同研究者である黒川健児准教授(長崎国際大学薬学部)から譲渡された菌の表面分子の欠損株を、一部角質層が除去された表皮へ塗布した。表皮内への好中球浸潤を確認できた切片数を野生株(RN4220)と比較した結果、Protein A欠損株(M0107)間と野生株で差は認められなかった(RN4220:53.3±9.3%, M0107:56.5±13.1%)。一方で、細胞壁タイコ酸欠損株(T174)やProtein Aと細胞壁タイコ酸に修飾している糖鎖の欠損株(T807)では、好中球浸潤を確認できた切片数が野生株よりも減少した(T174:19.7±9.6%, p≦0.05, T807:17.0±13.1%, p≦0.05)。これらのことから、黄色ブドウ球菌が顆粒層に付着した際、細胞壁タイコ酸内の糖鎖が表皮内へ好中球を誘導している可能性を示唆することが出来た。
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