研究課題/領域番号 |
17J01893
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
酒井 麻依子 立命館大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | 集団のスティル / Type / 家族 / コンプレックス / 他人の現れ / 表現 |
研究実績の概要 |
本研究はフランスの哲学者メルロ=ポンティが行った児童心理学と教育学の講義(ソルボンヌ講義)を他者論の発展の軌跡として体系的に読解することを目的としている。メルロ=ポンティはソルボンヌ講義の中で哲学のみならず様々な人間の科学を自在に用いつつ議論を行っている。本年度は特にソルボンヌ講義の中でも「大人から見た子供」に焦点を絞りつつ、文献解釈とフランスでの未刊行資料の調査を行なった。 当初の計画では、ソルボンヌ講義の中の子供の出生と家族内の変化に関する議論についての研究を行うことを当該年度中の課題としていたのだが、実際に行ったのは、子供が家族へ加入することで被る大人からの影響、あるいは社会構造からの影響という子供の側の議論であった。とは言え、この議論は精神分析、史的唯物論、文化人類学から想を得たメルロ=ポンティの「集団のスティルstyle」、つまり「類型Type」についての重要な考察である。というのも、この集団のスティルに基づいてこそ、主体は世界や他人の知覚を行うのである。この研究成果は学会で報告した。子供の誕生に伴う大人の側の変化というメルロ=ポンティの議論の研究は引き続き行う。もう一点、メルロ=ポンティの「役割」の概念についてモレノを手掛かりに研究する計画は当該年度中には達成できなかったため、こちらも引き続き研究する。 そのほかに、法政大学出版から3月に出版された『メルロ=ポンティ読本』に寄稿を依頼され、ソルボンヌ講義の直前期の著作『意味と無意味』の著作解題を執筆した。当該著作からは、当時のメルロ=ポンティの政治的な問題関心を確認することができた。このことによって上の「集団のスティル」、「類型」の議論が持つ意義--人種、民族、階級、性別などの社会的属性とその人物の人格との関係、文化・教育形式の継承や差別などのアクチュアルな問題に哲学的基礎を与えうるという意義を確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述の『意味と無意味』著作解題の執筆により、本研究が標題に掲げるソルボンヌ講義自体の研究ではないものの、メルロ=ポンティ他者論の再構成という本研究の目的に重要な寄与をする研究を進めることができた。 また、本研究と直接的に関連するわけではないが、メルロ=ポンティの後期思想に関する研究の補助を行ったことで、中期思想や他者論という主題よりも広い視野から本研究を見つめ直す機会を得た。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、一般的な類型としての他人の現れに対して、スティルの変形による個人の現れというテーマに移行する。また研究のテキストとしている講義録自体の文献学的な正当性があるのか、あるいはないのかということを調査する。 これまでの研究では、学会での単発の論文発表のために研究の独自性を追求した結果、メルロ=ポンティによる人間の諸科学の参照を議論する際、心理学や文化人類学などの原書を詳細に読み込んでしまう傾向があったため、今後はメルロ=ポンティの哲学研究であるということを念頭に置いて、必要最小限にとどめたい。
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