研究課題/領域番号 |
17J01902
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
勝原 光希 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 共存 / 進化-生態動態 / 自殖 / 繁殖干渉 / 送粉 / ツユクサ |
研究実績の概要 |
植物の多種共存機構の解明は生態学における中心的議題であり、伝統的には、それらは異なる送粉者に適応した花形態や開花期のずれといった、ニッチ分割理論によって説明されてきた。本研究の目的は、送粉者を介した繁殖干渉が存在しているにも関わらず、野外で同所的に分布するツユクサとケツユクサの共存機構を調査し、「自殖による他品種花粉の影響の軽減」と「送粉者の花粉媒介距離制限による同品種内送粉の増加」の2つを、ニッチ分割を伴わずに近縁植物種の共存を促進する仮説として検証することである。 本年度はまず、野外集団でのツユクサ・ケツユクサの自殖率の推定を行うために、共同研究者と共にケツユクサのマイクロサテライトマーカーの開発を行った(ツユクサのマイクロサテライトマーカーに関しては他の研究者らによって開発済み)。さらに、ツユクサとケツユクサの共存集団において、調査日ごとに各品種の開花量・送粉者量の調査と花へのマーキングを行い、開花期間終了後に種子のサンプリングを行った。これらの種子の自殖率を算出することで、自殖率と繁殖干渉の強さの関係について明らかにすることが可能である。 さらに、「先行自家受粉率の進化が繁殖干渉下の2種共存を可能にする」という仮説について、数理モデルによる検証を行った。開発したモデルでは、先行自家受粉率(先行自家受粉による自殖種子数/胚珠数)を進化しうる形質として扱い、送粉者量や近交弱勢(自殖のコスト)の程度を変化させた複数のシナリオで解析を行った。結果、先行自家受粉率が進化しないと仮定した場合には、これまでの知見通り、繁殖干渉による速やかな競争排除が発生した。しかし、先行自家受粉率が進化すると仮定した場合には、2種の先行自家受粉の共に進化することによって共存が促進される条件が存在することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、一年目には、マイクロサテライトマーカーの開発を終えたのちに、野外集団での自殖率の推定についても実験を開始している計画であった。しかし、マイクロサテライトマーカーの開発が想定より遅れてしまったことと、資金的な制限から、本年度の進捗はマーカーの開発までにとどまってしまった。その点に関しては、現在までの進捗状況は研究開始時の計画からは遅れているといえるかもしれない。 しかし、理論生物的手法に関して、数理モデルを用いた検証については、当初の計画を大幅に上回る速度で研究が進展しており、2年度目以降になると考えていた解析について既に順調に進められている。さらに結果についても、当初期待していた以上のものが得られており、今後の新たな研究への発展の可能性が十分に考えられるという点についても、順調な進捗が得られていると考えている。 上記のように、全体的に見て、現在までの進捗状況はおおむね順調であるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後はまず、サンプリング済み種子の親子解析から自殖率の算出を行い、自殖率と繁殖干渉の強さの関係について解析を行う。所属研究室では分子生態学的な解析を行う設備や知見が不足するので、共同研究者の下で実験を進めていくことを計画している。研究を進めていく上で課題や困難に直面した際には、分子生態学的な手法の専門家である共同研究者に協力を仰ぐことを快諾していただいている。 数理モデルを用いた仮説の検証については、本年度中に論文としてまとめ、査読付き国際誌へ投稿することを計画している。そのために、“先行自家受粉率の進化が共存を促進する”という結果が得られるパラメータについて網羅的な解析を行い、共存条件のパラメータ依存性について検証することが必要である。こちらも、数理生物学を専門とする共同研究者と共同して研究を進めていくことを計画している。
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