研究課題/領域番号 |
17J01913
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
大塚 啓介 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | 流体構造連成 / 空力弾性 / マルチボディダイナミクス / 絶対節点座標法 / モーフィング翼 / 柔軟展開構造物 / 非定常空気力 / 制御 |
研究実績の概要 |
制御系設計への適用を念頭に置いた上で,可変翼の流体構造連成モデリング法の基礎理論構築と,提案手法の高精度化・三次元解析への拡張を行った.さらに,本モデルを用いた数値解析の妥当性実証のための実験系を構築した. まず,ヒンジジョイントから成る可変機構を有した翼の挙動を表現するために,マルチボディダイナミクス(MBD)に着目した. MBDはヒンジジョイントなどで結合された構造物のモデルを機械的な手順で導出できる理論である.しかし,MBDで最も良く用いられる微分代数方程式表現のモデルは,冗長な変数とラグランジュの未定乗数を陽に含むため,制御系設計と相性が悪い.そこで速度変換法という別種のMBD理論を導入することで,冗長な変数とラグランジュの未定乗数を含まない数式表現のモデル構築を行った.この結果,モデルサイズが小さくなり,制御系設計との相性の良さに加えて,周波数領域でのフラッタ解析および計算時間の低減にも成功した. 可変翼の大変形挙動を表現するために非線形有限要素法:絶対節点座標法(ANCF)に着目した.ANCFは全体座標で記述されたベクトルのみで,構造物の挙動を表現する.この結果,可変翼の大変形・大回転の表現がとなる.しかし,ねじりが複雑なベクトルの組み合わせで記述されてしまうため,空力モデルとの連成には不適であった.そこで,可変翼の各部材のねじり変形は小さく,微小と仮定できることに着目した.これによって,ANCFの利点を損なわずに,ねじり角を表現でき,空力モデルとの連成を可能とした. 以上のように構築した可変翼モデルを用いた解析の妥当性を実証するための,翼の変形実験を行った.計測された可変翼の挙動は解析値と良好な一致を示した. また,提案する可変翼モデルに適用可能な制御則に関して幅広い学術調査を実施した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2017年度は計画していた「マルチボディダイナミクスと流体構造連成を融合した理論に,新たな近似仮定を設ける事で,線形運動方程式で表すことができる可変翼のモデリング法を構築すること」「線形運動方程式に対する周波数解析で,フラッタ発生速度の計算を行うこと」「変形挙動シミュレーションを繰り返し,提案するモデリング法の改善と精度向上を行うこと」を達成した.当初,流体構造連成に伴う計算時間の増大を懸念して,スーパーコンピュータの使用も計画していた.しかし,構築したモデルの計算効率・精度は良好であり,汎用デスクトップコンピュータの使用で十分な成果を得ることができた. また,計画していた「構築したモデルと制御理論を組み合わせ,可変機構制御系を設計すること」の代わりに,次年度実施予定だった「東北大学・流体科学研究所の風洞で変形実験を行い,モデルの妥当性を実証すること」を達成した. 加えて,当初は計画になかった「モデルの高精度化と三次元解析への適用」を可能とし,この研究成果をアメリカ航空学会誌AIAA Journalおよびアメリカ航空学会が主催する航空宇宙分野で世界最大規模の国際会議SciTechで公表できた.以上の計画通りの進捗と計画以上の研究成果を踏まえて「当初の計画以上に進展している」といえる.
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今後の研究の推進方策 |
2018年度は「空力モデルの高精度化」「風洞内翼変形実験の高精度測定」「構築したモデルと制御理論を組み合わせ,可変機構制御系を設計」の3つを行う. 第一に,計算コストと変数の増大を避けつつ,「空力モデルの高精度化」を行う.特に可変翼はスパンの長さが大きく変化するので,流れの三次元効果の影響が大きくなる.この三次元効果を考慮できるような空力モデルへと発展させる. 第二に,「風洞実験の高精度測定」を行う.風洞内で翼が大きく変形するような実験を実施したのは2017年度が初であった.このため,実験機器の運用や測定値の処理に改善の余地があると考えている.次回は2018年9月に東北大学・流体科学研究所で風洞実験を実施することになっている.本実験に向けて同施設所属の風洞実験の専門家との共同研究の下,実験の改善・向上に取り組むことを計画している. 第三に,「構築したモデルと制御理論を組み合わせ,可変機構制御系の設計」を行う.2017年度の学術調査結果を元に,基礎的検討を目的として,比較的変数が少なくて済む二次元問題を対象に実施する予定である.この際,航空機制御の専門家である国際共同研究者のアドバイスを有効活用する.
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