研究課題/領域番号 |
17J01949
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
古賀 高雄 神戸大学, 人文学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 技術哲学 / 京都学派 / 三木清 / 丸山真男 / 高木仁三郎 / ケイパビリティ / 原子力 / 構想力 |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、原子力の問題に即して、技術と人間の相互作用を視野に入れた「想像力」概念の展開を試み、技術における「想像力」の可能性と限界を示すことである。平成29年度の研究では、当初の予定通り、(1)京都学派の技術論の検討を行うのと並行して、(2)原子力問題の再検討を行った。 (1)三木清の技術哲学を中心として、京都学派の技術論の歴史的位置およびその可能性と限界について検討した。特に、技術におけるデザインの問題が取り上げられるようになっているここ10年ほどの技術哲学の状況を考慮に入れるなら、1930年代の三木の「構想力」に関する哲学的思索は、従来、心的作用に限定されて考えられがちであった「構想力」概念を技術の問題へと拡張しようとした先駆的なものであった。この点については、韓国での国際学会で発表する機会を得た。ただし、三木の議論はきわめて抽象的であるので、より具体的な技術実践に即した「構想力」の役割が問われる必要があることも明らかになってきた。また、三木との関連において、近代技術に対する丸山真男の態度について論じた論文(英語)をフィリピンの学術雑誌に発表した。 (2)一方、原子力の問題については、、高木仁三郎の「好ましさへの方向付け」というアイデアと、Nussbaumによる「ケイパビリティ・アプローチ」に注目し、科学技術をめぐる公共的意思決定が、与えられた環境や社会的状況から距離をとった批判的反省を可能にするような「善き生」についてのビジョンの明示化と、「善き生」という観点からの当事者とのコミュニケーションおよび当事者への配慮を含むべきであることを明らかにした。また、その成果を学術論文(日本語)として発表した。さらに、東日本大震災から7年目の現状と課題について考察を深めるため、福島でのフィールドワークも行った。その成果については、今後の学会発表・論文に反映する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度の当初の研究計画は、大きく分けて二つの部分から構成されていた。すなわち、(1)三木清の「構想力」論を中心とした京都学派の技術論の歴史的再検討および(2)原子力問題の倫理的再検討である。 (1)に関しては、韓国・慶熙大学校で行われた国際会議において、口頭発表を行う機会を得ることができた。また、京都学派という文脈からは多少のずれがあるものの、技術に関する丸山真男の態度について論じた論文をフィリピンの学術雑誌に発表することもできた。 また、(2)に関しても、その成果を論文として発表することができた。また、まだその成果は発表することができていないが、福島でのフィールドワークも行い、震災7年目の現状と課題について考察する糸口を得た。 さらに言えば、これらの研究と並行して、平成30年度に予定していた、現代の技術哲学および科学技術社会論の先行研究を広く渉猟する作業に着手することができた。ただし、この作業に着手したことによって京都学派の技術論の再検討が多少手薄になったという可能性も否めない。しかし、それはあくまで予定の前倒しによるものであり、今後の研究の中で十分挽回可能であると判断する。 以上のことから、本研究は、当初の予定通り、おおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、三木清の「構想力」論の可能性と限界を踏まえたうえで、放射能という「目に見えないもの」との関わりにおいて「構想力」ないし「想像力」の役割を考察する予定である。原子力技術は、放射能という「目に見えないもの」と関わらざるを得ない技術である。そして、それが「目に見えないもの」であるがゆえに、原子力技術には、解釈をめぐるある種の政治的抗争が生じるのであり、そこに想像力が介入してくるのだと考えられる。こうした観点から「想像力」の役割を考える際、次のような研究方策が必要となると考えられる。 (1)ポスト現象学的技術哲学の視点の導入。Don Ihdeを嚆矢とし、最近ではPeter-Paul Verbeekによって展開されているポスト現象学的技術哲学によれば、技術のあり方は、人間の知覚や行為だけではなく、道徳的判断にさえ影響している。今後の研究では、この観点を導入して、技術を通じた「目に見えないもの」との関係がいかなるものかについて考察する。 (2)戦後日本社会における放射能をめぐる言説の検討。放射能という「目に見えないもの」をめぐる解釈について具体的に検討するためには、戦後日本社会においていかなる言説や解釈が蓄積されてきたのかを押さえる必要がある。それゆえ、原子力技術だけではなく、放射能に関わる他の技術(例えば、放射線医療など)にも目配せしつつ、放射能にまつわる諸言説の分析を行う。 (3)「想像力」概念の倫理的検討。放射能という「目に見えないもの」をめぐる解釈は、まさにその見えなさによって、複数化する傾向がある。そのため、放射能に関する倫理的問題に対処するには、一つの倫理的原則を立てたうえで演繹的にその善悪を決定することは困難である。それゆえ、そのような複数性を考慮に入れる議論として、プラグマティズムの文脈で議論されている「道徳的想像力」に注目し、その実効性を検討する。
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