研究課題/領域番号 |
17J01952
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
板垣 望 九州大学, 工学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | ハイドロゲル / ビニルエーテル / 生体不活性 / 水界面 / 摩擦特性 / 中性子反射率 / 分子鎖熱運動性 / 水平力顕微鏡 |
研究実績の概要 |
平成30年度は、中性子反射率(NR)測定に基づきハイドロゲル膜の水中における構造解析を行い、水平力顕微鏡(LFM)観察に基づきハイドロゲル膜の表面摩擦特性を評価した。 まず、架橋密度の異なる3種類のハイドロゲル薄膜を調製した。NR測定において、ポリマーブラシの密度分布を記述する際に用いられる放物線関数を適用した際に、最も精度よく実験値を再現することができた。よってハイドロゲル膜は、水界面において自由に運動する分子鎖(ダングリング鎖)を有し、厚さ十数nmにわたってポリマーブラシと同様の体積分率プロファイルを有することが明らかになった。さらに界面層は、架橋密度が低下するに従い、界面層の厚みが増加した。これは、架橋密度の低下に伴い、水界面近傍におけるダングリング鎖の面内密度が減少することと相関があると考えられる。以上、NR測定から、水中におけるハイドロゲル膜の界面構造を明らかにした。 次に、ハイドロゲルの分子鎖熱運動性に関する界面物性として摩擦特性に着目し検討を行った。摩擦特性の指標として水平力の垂直荷重依存性を評価した。水平力は荷重と比例して増加したのちに、ある垂直荷重を境にほぼ一定の値となった。これは臨界垂直荷重以下すなわち界面近傍では、臨界垂直荷重以上すなわち膜内部と比較して摩擦係数が大きいことを意味する。ハイドロゲル膜の水界面における分子鎖の分布が、ポリマーブラシと同様であることを考慮すると、界面近傍の摩擦の起源は、接触したプローブによって引き伸ばされた分子鎖のエネルギー損失であると考えられる。一方、膜内部まで押し込むと、界面層の分子鎖はすべて押しつぶされる。そのため摩擦は膜内部の膨潤率などを反映し、荷重への依存性が極めて低下する。以上から、ハイドロゲルの摩擦特性は界面近傍ではダングリング鎖の影響を受け、それより深い領域では膜内部の特性により決定づけられると結論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は当初の目的に従って、膨潤率の制御されたハイドロゲル薄膜の調製、中性子反射率(NR)測定に基づく構造解析および水平力顕微鏡(LFM)観察に基づく摩擦特性の評価を実施した。NR測定では、ハイドロゲル薄膜の深さ方向の密度プロファイルを明らかにした。特に、水界面における分子鎖凝集状態について詳細な考察を行うことができた。さらにLFM観察では、水中におけるハイドロゲル薄膜表面の摩擦特性が界面近傍とそれ以上押し込んだ際に顕著に異なった挙動を示すことを明らかにし、その起源を分子鎖凝集状態の描像をもとに明らかにした。研究成果は、国際学会を含め複数の学会にて発表済みであり、現在、論文執筆中である。以上の理由により、期待通り研究が進展したと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、まず水界面における分子鎖ダイナミクス評価法の開発を行う。ハイドロゲルは、高度な分子設計がなされていない限り、前述のとおり構造内にダングリング鎖を有する。また、表面におけるダングリング鎖は膜内部と比較して高い熱運動性を有すると考えられ、あらゆる機能発現に影響することが予想される。しかしながら、ハイドロゲル最界面の分子鎖熱運動性を定量的に評価する手法は確立されていない。そこで、これまでに凝集状態と力学物性の詳細を明らかにした前述のハイドロゲル薄膜をモデルとして用い、定量評価に取り組む。そのための手法として、粒子追跡法に着目した。粒子追跡法では、プローブ粒子の熱運動を観測し、その軌跡を解析する。 ハイドロゲル膜上にプローブ粒子の分散液を着滴させ静置すると、いくつかの粒子は激しく熱運動しながらも重力に従い、ハイドロゲルと水の界面に到達する。界面層に拘束された粒子の熱運動は水分子および接触した分子鎖の熱運動性を反映すると考えられる。現在、網目サイズと同等の粒径を有するプローブ粒子を用いながら、実験条件および解析方法の確立を目指し、検討を始めている。 さらに、分子鎖熱運動性の積極的な二次元方向の制御および生体適合性の評価を行う。最終的には、分子鎖熱運動性ひいては生体適合性の二次元パターニング方法を確立する。
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