令和元年度は、ハイドロゲル界面におけるダングリング鎖のダイナミクスを粒子追跡法に基づき評価した。まず、架橋密度の異なる3種類のハイドロゲル(c-MrV)薄膜を調製した。膜表面に着滴させた分散液中のプローブ粒子の直径(d)が100および200nmの場合、界面における保持時間は数秒程度であり、試料間に有意な差は見られなかった。一方、30および50 nmのとき、保持時間は増加し、架橋密度が小さい程長くなる傾向にあったことから、これらの粒子は界面層内に存在したと考えられる。以上の結果から、界面における分子鎖のダイナミクスを評価するには、d=30および50nmの粒子が適切であることが示唆された。 続いて、ダングリング鎖のダイナミクスを評価するために、c-MrV界面における粒子追跡を行った。粒子の熱運動からその平均二乗変位(MSD)を算出したところ、いずれの粒子径においても、MSD値は時間の経過に伴い増加した後、一定値に近づいた。これは、c-MrV界面は観測時間によって粘性的あるいは粘弾的に振る舞うことを示唆している。また、MSD値はVEM含有率、すなわち架橋密度に依存して異なることが確認された。そこで、界面における粘弾性の評価を行うため、MSDに対して一般化Stokes-Einsteinの関係を適応し、貯蔵弾性率(G')および損失弾性率(G")の角周波数(ω)依存性を算出した。ωに対するG"の傾きはある周波数において変化した。この結果は界面層のダングリング鎖の運動モードの変化を反映している。界面層内部に存在しうるd=30nm粒子から算出したG'は、d=50nmの場合に比べて大きかった。このことから、ゲル界面層における弾性率は最外層に向かうにつれて低下することが示唆された。以上の結果から、粒子追跡法に基づき界面におけるダングリング鎖のダイナミクスを非摂動状態で評価できたと結論づけた。
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