研究課題/領域番号 |
17J01992
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
吉田 尚恵 日本大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | RNAアプタマー / 修飾核酸 / 分子シミュレーション / フラグメント分子軌道計算 / 分子動力学計算 / 分子間相互作用 / フリップアウト構造 |
研究実績の概要 |
RNAアプタマーは標的分子に対して高い特異性と親和性により結合することができる核酸分子である。アプタマーの標的となる分子は多岐にわたるため、医薬品や診断薬、分離剤など様々な分野で、次世代の機能性分子として期待されている。アプタマーは、試験管内選択(SELEX)法という人工進化法により取得されるが、標的分子への結合性の向上や生体内での安定性の向上のため、化学修飾が必須となる。現在、どのような修飾をどこに入れるかは経験と勘に頼っており、多くの時間と費用が必要である。本研究は、RNAアプタマーと標的タンパク質との結合力を計算化学的に予測し、RNAアプタマーの効率的な設計手法の確立を目指している。 当該年度は、ヒト抗体に対して結合性を示すRNAアプタマー(IgGアプタマー)、および結合性を示さないIgGアプタマーを解析の対象とし、それぞれのIgGアプタマーと抗体との複合体構造に対して古典力学に基づく分子動力学(MD)計算を行った。そして、IgGアプタマーの動的挙動を比較し、IgGアプタマーの構造と結合性の関係について解析した。MD計算の結果、これらのIgGアプタマーは、7番目のグアニジン(G7)の動的挙動が異なることが示された。したがって、このG7の分子挙動の違いがIgGアプタマーのヒト抗体に対する結合性の違いを引き起こす要因であることを明らかとした。この結果は、前年度に明らかとした、G7のフリップした構造がヒト抗体との分子認識に重要な役割を担うことを裏付けるものであった。さらに、結合に重要なG7のフリップ構造はU6のリボース2’位のフルオロ基がIgGアプタマー内部からサポートしていることを明らかとした。 以上より、当該年度では、IgGアプタマーとヒト抗体との結合性の違いをIgGアプタマーの動的挙動を解析し、IgGアプタマーの結合メカニズムを理解するための知見を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、RNAアプタマーと標的タンパク質との結合力を計算化学的に予測するために、構造的な側面とエネルギー的な側面の両方からRNAアプタマーの結合メカニズムの解明に取り組んでいる。ヒト抗体に結合するRNAアプタマーについては、すでに多くの化学修飾体が合成され、その結合力が実験により調べられているため、これらのRNAアプタマーに対して計算化学的な解析を進めている。 当該年度の研究計画では、ヒト抗体に結合するRNAアプタマー(IgGアプタマー)に対して、古典力学に基づく分子動力学(MD)計算を用いて、化学修飾がIgGアプタマーの立体構造へどのような影響を与えるのか、これまでの研究で特定したヒト抗体との結合に重要な役割を持つ領域に着目しながら解析する予定であった。そして実際に、ヒト抗体に対して結合性を示すIgGアプタマー、および結合性を示さないIgGアプタマーの動的挙動を比較することで、IgGアプタマーのヒト抗体に対する結合性の違いを引き起こす要因を特定した。次に、これらのIgGアプタマーに対して、フラグメント分子軌道(FMO)計算を用いて、化学修飾がIgGアプタマーの電子状態へどのような影響を与えるのか、相互作用解析を行った。ヒト抗体との結合に重要なフリップ構造に着目して解析を進めたところ、化学修飾の違いにより、フリップ構造との相互作用が変化することを明らかにすることができた。 以上のことから、当初の予定どおり、ヒト抗体との結合性を大きく変化させる化学修飾がIgGアプタマーに与える影響について、構造的な側面とエネルギー的な側面の両方から研究成果が得られ、現在までの進捗状況はおおむね順調に進展していると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
研究の最終年度である2019年度は、本研究の目的である計算化学による新規RNAアプタマーの設計手法の確立に向けて、RNAアプタマーが標的タンパク質に対して結合するメカニズムを明らかにすることを目指す。 これまでの二年間の研究では、ヒト抗体に特異的に結合するRNAアプタマー(IgGアプタマー)を解析の対象とし研究を進め、IgGアプタマーと抗体との複合体構造に対する量子化学(QM)計算、および分子動力学(MD)計算を行ってきた。その結果、IgGアプタマーは、フリップアウト構造のコンフォメーションを維持することが、抗体との結合において重要であることを明らかにすることができた。そこで本年度は、抗体に対する結合性が異なる様々な配列を持つ複数のIgGアプタマーに対して、同様に解析を進めていく。これにより、IgGアプタマーの配列の違いが、IgGアプタマーの立体構造にどのような影響を与え、結合性を制御しているか明らかにすることができると考えている。さらに、ヒト抗体とIgGアプタマーの複合体に対するMD計算のトラジェクトリーから構造を抽出し、それらの構造に対してフラグメント分子軌道(FMO)計算を用いた相互作用解析を行う。これにより、IgGアプタマーの配列の違いが、抗体とIgGアプタマーとの分子間相互作用、そしてIgGアプタマーの分子内相互作用へ与える影響について解析する。これらの解析結果と、ウェット実験による結果を照らし合わせることで、IgGアプタマーの結合性を予測する手法を構築する。そして、構築した予測手法を用いて新規アプタマーの設計を行い、実際に化学合成し、その結合活性を測定する。測定されたデータは、さらに計算化学へフィードバックすることで、計算化学による予測とIgGアプタマーの結合活性評価との相関を確立していく予定である。
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