本研究で対象とする炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、金属材料と比較して高い比強度・比剛性を有するため、金属材料と同等の強度を軽量な構造で実現することができる。しかしながら、CFRPが金属材料にはない特徴的な階層構造を有するため、構造健全性の評価は容易ではない。そこで本研究では、CFRPの母材樹脂の分子構造、繊維直径オーダの微視的材料構造および構造部材オーダでの巨視的変形場を考慮したマルチスケール解析による構造健全性評価手法の構築を目指した研究を行った。 2019年度は、構造健全性の評価尺度のうち構造材料の強度と部材成形時の形状精度に焦点を当て、(1) CFRP積層板のマトリクスクラック発生予測のための2スケール解析手法の検証、(2) CFRP製構造部材製造時に生じる残留変形予測へ向けた3スケール解析手法の構築と妥当性評価、を行った。(1)では、2018年度までに構築した繊維直径と積層板のスケールでの有限要素解析からなる2スケール解析コードの検証のため、積層板の引張負荷下でのき裂の発生を実験的に評価し、実験と数値解析の比較により解析コードを検証した。その結果、本研究の2スケール解析コードは積層板90°層の自由端層間付近で発生する初期き裂と自由端厚さにわたって連結した自由端き裂を精度よく予測できることが示された。(2)では、2018年度に構築した分子動力学法による母材樹脂の硬化プロセス中の特性予測手法を繊維直径と積層板のスケールでの有限要素解析と組み合わせた3スケール解析コードを構築し、CFRP製構造部材の成形時残留変形の予測と実験との比較による妥当性評価を行った。その結果、構築した解析コードは積層板の成形時残留変形を定性的に予測可能であり、特に設計初期の母材樹脂選択において有用なツールとなり得ることが示された。2019年度の当該研究の成果は、国際誌1報として報告した。
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