研究課題/領域番号 |
17J02010
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
吉田 将隆 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
|
キーワード | 最適制御シミュレーション / 分子整列制御 / 時間分解X線回折像 |
研究実績の概要 |
高い光子フラックスの超短X線自由電子レーザー(X-FEL)パルスを用いれば、化学反応に伴う分子構造の変化を時間分解X線回折像のスナップショットとして直接観測できる。しかし、繰り返し測定を行う際に試料分子の向きを揃えなければ、分子の異方性を反映した情報は配向平均により失われてしまう。このように、分子配向を特定の空間固定系に対して揃える整列制御は気相分子の操作や測定の実験において重要な技術である。3次元的な整列制御には、高強度の非共鳴パルスの照射が有効であることが知られているが、どのような偏光条件・パルス強度・時間間隔が3次元整列制御に最適なのかは、明らかになっていない。 本研究ではSO2分子を例に、我々が開発した非共鳴の最適制御シミュレーション法を拡張し、高い3次元整列度合いを実現するレーザーパルスを数値設計する。さらに整列分子の時間分解X線回折像から分子構造情報をどの程度得られるのかシミュレーションする。 最適化の結果、最適パルスを照射することでa,b,c軸方向の整列度合いの平均値を0.33から0.77まで高められた。最適化したパルスの波形によると、最適パルスは互いに直交する直線偏光パルスの組み合わせからなる。また、最適パルスをダブルパルスで近似したところ、最適パルスによる達成度合いの85%程度まで3次元整列度合いを高められるという知見が得られた。 目的時刻にX-FELパルスを照射して得られる時間分解X線回折像のシミュレーションを行った。整列制御した分子にX線回折を適用することで、回折像には分子の整列方向に対して明瞭な異方性が現れる。これを逆フーリエ変換すると、整列した分子の各原子間の距離を明瞭に表した構造情報が得られる。また、3次元整列した分子に対して異なる方向からX-FELパルスを照射し回折を測定することで、立体的な分子構造情報を得られる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の研究計画では、3次元整列制御に加えて分子の振動状態まで制御する目標であったが、計画段階にはなかった整列制御方向について複数の与え方を考えるという拡張を行った結果、シミュレーションの収束までに時間がかかってしまい、その前段階である分子を剛体とみなした場合の整列制御の制御機構の解析までしか研究が進展していないから。 ただし、もう1つの目標である時間分解X線回折像から分子構造を得ることは達成できたため、その点では研究を計画通りに進めることができたと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
3次元整列制御と同時に振動状態を制御するのに最適なレーザーパルスを最適化シミュレーション法により数値設計する。その際、どのような整列方向が振動制御に適しているのか調べるため、複数の空間配置を考える。さらに非対称コマ分子の振動・回転カップリングをそのまま扱うのは計算コストの観点から困難であるため、従来の最適化シミュレーションアルゴリズムにTDSCF(時間依存自己無撞着場)法を加え、振動状態と回転状態を分けて扱う。 また、TDSCF法を用いずに振動・回転状態の同時制御を行う最適化シミュレーションアルゴリズムも開発し、両者の結果および計算コストを比較して、TDSCF法の妥当性を検証する。さらに、振動・回転状態の同時制御を効果的に行う機構を得られたパルスより解析する。 また、時間分解X線回折のシミュレーションを拡張して、分子の回転・振動ダイナミクスを追跡する。分子構造が時間変化する様子を、時間分解X線回折像の逆フーリエ変換を用いて、スナップショットとして追跡する。 さらに、光化学反応制御に最適なポンプパルスを数値的に設計する最適化シミュレーションアルゴリズムを開発する。ポンプパルスの制御目的はピロールの光異性化とする。その際、偏光条件や偏光方向を変えた計算を行い、制御結果の偏光方向依存性を調べ、どのような偏光条件が制御に適しているのか議論する。
|