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2017 年度 実績報告書

イオン移動度質量分析法による多元素クラスターの幾何構造と反応機構の解明

研究課題

研究課題/領域番号 17J02017
研究機関東北大学

研究代表者

永田 利明  東北大学, 理学研究科, 特別研究員(PD)

研究期間 (年度) 2017-04-26 – 2020-03-31
キーワードクラスター / 幾何構造 / 反応性 / イオン移動度分析 / 質量分析 / 酸化セリウム / 一酸化窒素
研究実績の概要

当年度は、金属酸化物クラスターの持つ特異な反応性の起源を明らかにすべく研究を遂行した。まずセリウム酸化物クラスターカチオンを研究対象とし、実験装置内で実際にそれらのイオンを生成・観測することに成功した。ヘリウムガスを充填したイオンドリフトセルを用いたイオン移動度質量分析により、各イオンの衝突断面積を決定した。実験と並行して量子化学計算を行い、セリウム酸化物クラスターカチオンの幾何構造の候補を求め、それらの理論的な衝突断面積を算出した。実験から得られた衝突断面積と理論計算から得られた衝突断面積を比較することで、各クラスターイオンの幾何構造を決定した。その結果、セリウム酸化物クラスターカチオンは従来の理論計算でエネルギー最安定とされていたものとは異なる特徴を持つ幾何構造を取ることが強く示唆された。特に、本研究で得られた幾何構造は、これまで反応の活性中心だと考えられていた末端位酸素原子に関する構造が大きく異なることから、これらのクラスターの反応性を解釈するうえで重要な知見が得られたといえる。
さらに、クラスター・異分子複合体の構造研究を行うための実験装置の改造と実験に着手した。イオン移動度質量分析を行う前にクラスターイオンを気体分子と反応させるため、反応セルをクラスター源の下流に設置し、この新設した反応セルで反応実験を行うための適切な条件を探索した。この装置を用いて、セリウム酸化物クラスターカチオンにNO分子を付加し、イオン移動度質量分析を行うことで、これらの複合体の衝突断面積を測定した。上の研究と同様に、理論計算との比較からクラスター上にNO分子がどのように付加しているかを検討した。現状では次年度以降の継続的な研究を必要とする段階であるが、クラスター上に付加したNO分子がクラスター中の酸素原子と反応して二酸化窒素(NO2)分子を形成しつつある構造が1つの候補として示唆された。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

当年度は当初の目標通り、セリウム酸化物クラスターについて幾何構造の研究を行い、その特異な反応性の起源について示唆を得ることができた。本研究によって、セリウム酸化物クラスターカチオンが従来の予測とは異なる幾何構造、異なる反応機構を取ることが示され、クラスターの化学反応の研究において実験科学的な幾何構造の検証が重要であるという、本課題の意義の1つが実証されたといえる。実験に基づいた構造決定が従来の予測と異なっていたことは、セリウムのようなfブロック元素を含む系における量子化学計算の困難さを示しており、本成果は計算手法の改良へとフィードバックしていける可能性をも持っている。さらに、研究計画上は次年度以降に予定していたクラスター・異分子複合体の研究に着手し、このような系についてイオン移動度質量分析法による研究が可能であることを実証し、一定の成果を収めつつある。これらのことから、当年度は当初の計画以上に研究が進展しているものと判断できる。

今後の研究の推進方策

次年度以降の研究遂行の方向性としては、当年度に着手したクラスター・異分子複合体の研究について進展させること、これまでの研究とは異なる元素から構成されるクラスターイオンについて同様の研究を展開すること、複数の金属元素を含んだ多元素クラスターを対象に研究を展開することが挙げられる。
まず1点目については、当年度既にセリウム酸化物クラスターカチオンと一酸化窒素の複合体についてある程度研究の進展を見ており、大きな困難は予測されない。課題としてはクラスター・異分子複合体は通常の金属酸化物クラスターよりも容易に分解することが想定されることから、より低エネルギー環境におけるイオン移動度質量分析を実現することが他の組み合わせの複合体へと展開するにあたって望ましい。そのような低エネルギー条件におけるイオン移動度質量分析は可能であるが、検出されるイオン強度が減少し、従来より厳密な実験装置の調整が要求されることが分かっている。そのため、実験装置の改良や微調整を行い、密なメンテナンスを心がける。
2点目について、幾何構造の研究において、特に反応性との関りから興味が持たれる金属酸化物クラスターがいくつか存在するため、それらへと研究を展開していく予定である。実験においては特に装置を変更せずに試料を入れ替えるのみであるので、これも大きな困難は予測されない。
3点目について、多元素クラスターの生成に当たって新たなクラスターイオン源を現在製作中である。第2年度中にこれを完成させ、実際に測定を行うことを目標としている。

  • 研究成果

    (8件)

すべて 2018 2017 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件) 学会発表 (3件)

  • [国際共同研究] Radboud Universiteit Nijmegen(オランダ)

    • 国名
      オランダ
    • 外国機関名
      Radboud Universiteit Nijmegen
  • [雑誌論文] Reduction Site in CenVmOk+ Revealed by Gas Phase Thermal Desorption Spectrometry2018

    • 著者名/発表者名
      Fumitaka Mafune, Daigo Masuzaki, Toshiaki Nagata
    • 雑誌名

      Topics in Catalysis

      巻: 61 ページ: 42~48

    • DOI

      10.1007/s11244-017-0862-5

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Oxygen Release from Cationic Niobium-Vanadium Oxide Clusters, NbnVmOk+, Revealed by Gas Phase Thermal Desorption Spectrometry and Density Functional Theory Calculations2017

    • 著者名/発表者名
      Daigo Masuzaki, Toshiaki Nagata, Fumitaka Mafune
    • 雑誌名

      The Journal of Physical Chemistry A

      巻: 121 ページ: 3864~3870

    • DOI

      10.1021/acs.jpca.7b01961

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Thermal Analysis of Hydrated Gold Cluster Cations in the Gas Phase2017

    • 著者名/発表者名
      Toshiaki Nagata, Fumitaka Mafune
    • 雑誌名

      The Journal of Physical Chemistry C

      巻: 121 ページ: 16291~16299

    • DOI

      10.1021/acs.jpcc.7b04119

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Adsorption Forms of NO on Rhn+ (n = 6-16) Revealed by Infrared Multiple Photon Dissociation Spectroscopy2017

    • 著者名/発表者名
      Toshiaki Nagata, Kohei Koyama, Satoshi Kudoh, Ken Miyajima, Joost M. Bakker, Fumitaka Mafune
    • 雑誌名

      The Journal of Physical Chemistry C

      巻: 121 ページ: 27417~27426

    • DOI

      10.1021/acs.jpcc.7b08097

    • 査読あり / 国際共著
  • [学会発表] イオン移動度質量分析法を用いた酸化カルシウムクラスターカチオンの幾何構造の研究2018

    • 著者名/発表者名
      齋藤 周, 蛇口 大揮, 永田 利明, 中野 元善, 美齊津 文典
    • 学会等名
      日本化学会第98春季年会
  • [学会発表] イオン移動度質量分析法による酸化セリウムクラスターカチオンのNO分子との化学反応の研究2018

    • 著者名/発表者名
      永田 利明, Jenna Wu, 中野 元善, 美齊津 文典
    • 学会等名
      日本化学会第98春季年会
  • [学会発表] イオン移動度質量分析法によるセリウム酸化物クラスターカチオンの幾何構造の研究2017

    • 著者名/発表者名
      永田 利明, Jenna W. J. Wu, 中野 元善, 大下 慶次郎, 美齊津 文典
    • 学会等名
      第11回分子科学討論会

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公開日: 2018-12-17  

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