研究課題/領域番号 |
17J02017
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
永田 利明 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | クラスター / 幾何構造 / イオン移動度分析 / 質量分析 / 酸化セリウム / 金ナノ粒子 |
研究実績の概要 |
研究期間の第2年度であった当年度は、気相多元素クラスターの研究として、金属酸化物クラスターへの異種金属元素の担持形態とその効果について研究を行った。具体的には、酸化セリウムクラスター正イオンに金原子を組み合わせたクラスターを研究対象とした。 初めに、複合クラスターを実験装置内で生成するためのクラスターイオン源を設計・製作した。クラスター生成はこれまでと同様に真空槽内でのレーザー蒸発法を用いたが、今回は複数の構成要素からなるクラスターを真空装置内に生成する必要があるため、2つの蒸発用ターゲットに同時にパルスレーザーを照射する装置を製作し、これを測定機器に接続した真空槽内に設置した。蒸発用ターゲットとして二酸化セリウムと金をセットし、製作したクラスターイオン源が設計通りの動作をすることを確認した。その上で、目的とするクラスターイオンを生成するための実験条件の検討を行い、実際に生成することに成功した。 続いて、イオンドリフトセルを用いたイオン移動度質量分析法の測定を行うことで、各クラスターイオンのヘリウム原子に対する衝突断面積を決定した。複数の構成要素からなるクラスターは、各構成要素の原子数に応じて多種多様な組成のものが同時に生成するが、本研究では質量分析とイオン移動度分析を組み合わせたイオン移動度質量分析法を用いることで、質量とイオン移動度の2軸からなる2次元スペクトル上で、複雑な組成のクラスターを明瞭に分離して観測できることが見出された。 実験と並行して量子化学計算を行った。観測したクラスターイオンの幾何構造の候補を求め、それらの理論的な衝突断面積を算出し、実験で得られた値と比較することで各クラスターイオンの幾何構造を検討した。理論計算から予測された構造は、AuCe2O4+が比較的コンパクトな構造を取るといった実験結果の傾向と整合した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当年度は当初の目標通り、複数の試料を同時にレーザー蒸発するクラスターイオン源の設計・製作を行い、意図通りの動作をすることを確認したうえで、実際に金と酸化セリウムを組み合わせた気相クラスターイオンを生成・観測することに成功した。そのうえで、これらのクラスターイオンの幾何構造について議論を展開することができた。 さらに、前年度に予定を先行して着手していた、気相クラスターイオンに気体分子を反応させた後でイオン移動度質量分析を行う手法を、本年度製作したクラスターイオン源と組み合わせることで、複合クラスターイオン・異分子複合体という、一層複雑な多元素クラスターの研究に着手することができた。これらのことから当年度は当初の計画以上に研究が進展しているものと判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度にあたる次年度は、これまでの研究で手法や方法論を確立してきた、気相金属酸化物クラスターイオンの構造研究、クラスター・異分子複合体の構造研究、異種金属元素を組み合わせたクラスターイオンの構造研究、異種金属元素を含みさらに異分子と複合させたクラスターイオンの構造研究といった枠組みの中で、これまでに扱ってこなかった元素を含む系に研究を展開していく予定である。実験装置については軽微な調整や改良にとどめ、これまでに設計・製作したものを活かして研究を遂行する。 また、多元素クラスターにおける衝突断面積の理論値の算出方法について、次のような課題が浮上している。従来、単一元素からなる金属クラスターや、ほぼ一定の原子数比の金属酸化物クラスターに適用されてきた、スケールされた原子半径に基づく投影近似法による理論的な衝突断面積の見積もりは、化学量論比から逸脱した金属酸化物クラスターや、複数の構成要素が様々な比で複合したクラスターのような不定比性のクラスターについては、大まかな傾向を再現することはできるものの、定量的に実験値と比較可能な値を得ることが難しいことが明らかとなっている。したがって今後はこのような理論計算の手法について改善することも目指していく。
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