研究期間の第3年度(最終年度)であった当年度は、昨年度までに引き続きイオン移動度質量分析法を用いた気相クラスターの研究を行った。前年度までの研究で当初の目標は最低限達成できたものと考えられるため、研究最終年度としては研究課題の総まとめと今後の展開への繋がりを企図し、前年度までの研究の延長として酸化セリウムを基本としたクラスター化学の研究について補足的な実験や理論計算を進めたほか、これまでの研究で確立した実験装置・研究手法を他の研究対象、具体的には酸化マンガンを基本とした気相クラスターの系へと展開した。 これまでに研究した金・酸化セリウム複合クラスターと一酸化炭素(CO)分子の反応では、付加反応の過程でクラスターの構造が大きく変化することがイオン移動度質量分析法の測定結果より示された。このように大きな構造変化を伴うことが理論計算から予測されている他のクラスター・気体分子反応として、酸化マンガンクラスターと水分子の反応が挙げられる。本研究の実験手法は、反応による構造変化を検出できることがこれまでの研究で示されたため、酸化マンガンクラスターが関与する反応の解析は有望な研究テーマと考えられる。酸化マンガンクラスター自体、気相中での構造は明らかになっておらず、例えばMn4O4+には先行研究によって異なる構造が提案されている。そこで酸化マンガンクラスターの構造研究をイオン移動度質量分析法により進めた。実験から、種々の組成の酸化マンガンクラスターに対応する衝突断面積の値を得ることができた。これを量子化学計算の結果と比較して構造の同定を進めた。Mn4O4+はこれまでに環状構造とコンパクトな立体構造の2通りの提案があったが、実験結果とより整合するのは環状構造であった。他のサイズ・組成のクラスターについても構造の同定を進めた。
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