研究課題/領域番号 |
17J02039
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
関中 保 東北大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | 直接誘導 / MEF / PGC |
研究実績の概要 |
本研究は、体細胞(マウス胎仔線維芽細胞:MEF)から、生殖細胞の元となる始原生殖細胞(PGC)を直接誘導し、その際のメカニズムを解明することで、生殖細胞だけが持つ個体発生全能性という性質について理解することを目的としている。1昨年度までに行った私の研究成果により、MEFのエピゲノム状態をPGCへ近づける操作を行うことで(処理群MEF)、MEFの全ゲノム的な遺伝子発現状態を、PGCに近づけることに成功した(Sekinaka et al. Sci. Rep., 2016)。しかしながら、処理群MEFの遺伝子発現パターンは未処理MEFとPGCの中間段階に位置しており、また、処理群MEFは減数分裂の開始などといった、生殖細胞に特徴的な表現型を示さなかったことから、処理群MEFの遺伝子発現パターンをさらにPGCに近づける必要があると考えられた。 平成29年度は、取得したトランスクリプトームデータを用いて、処理群MEFの遺伝子発現パターンをさらにPGCへ近づけるために重要と考えられる遺伝子21遺伝子の過剰発現を行ったところ、処理群MEFでは発現が上昇せず、かつ、PGCで高発現する遺伝子(以降PGCマーカーと記載)の発現上昇が見られた。続いて、21遺伝子のうち、様々な組み合わせでの過剰発現を試したところ、PGCマーカーの発現を上昇させるために重要な遺伝子はわずか3つであることがわかった。 今後は、上記操作を行ったMEFでは、単一細胞レベルでPGCマーカーが発現上昇しているのか、また、全ゲノム的な遺伝子発現状態がどの程度PGCに近づいたのかを検証する予定である。現在、先行研究(Kurimoto et al., Nucleic Acid Res., 2006)を参考に、シングルセルでの遺伝子発現定量解析系(シングルセルqPCR)の立ち上げを完了し、操作を行ったMEFでの解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、これまでの私の研究で明らかとした、体細胞(マウス胎仔線維芽細胞:MEF)のエピゲノム状態を生殖細胞の元となる始原生殖細胞(PGC)辺かづける操作を行うと(処理群MEF)、MEFの全ゲノム的な遺伝子発現状態がPGCに近づくという知見を基盤に(Sekinaka et al. Sci. Rep., 2016)、さらに遺伝子発現状態をPGCへ近づけるための操作として、遺伝子の過剰発現を考え、これまでに取得したトランスクリプトームデータを用いて、処理群MEFの遺伝子発現パターンをさらにPGCへ近づけるために重要と考えられる遺伝子21遺伝子を抽出した。実際に、上記21遺伝子を過剰発現したところ、処理群MEFでは発現が上昇せず、かつ、PGCで高発現する遺伝子(以降PGCマーカーと記載)の発現誘導に成功した。さらに、21遺伝子のうち、様々な組み合わせでの過剰発現を試し、PGCマーカーの発現を上昇させるために重要な遺伝子を3つに絞り込むことに成功した。 以上のように、処理群MEFの遺伝子発現状態をさらにPGCへ近づける条件の基盤を確立することに成功したことから、本研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、上記操作を行ったMEFでは、単一細胞レベルでPGCマーカーが発現上昇しているのか、また、全ゲノム的な遺伝子発現状態がどの程度PGCに近づいたのかを検証する予定である。そのために、先行研究(Kurimoto et al., Nucleic Acid Res., 2006)を参考に、所属研究室にて、シングルセルでの遺伝子発現定量解析系(シングルセルqPCR)の立ち上げを行った。現在、先行研究の結果を再現できており、実験系の立ち上げは完了した。今後は、シングルセルqPCR技術を用いて遺伝子発現定量を行い、続いて、全ゲノム的な遺伝子発現解析により、上記操作を行ったMEFが単一細胞レベルでPGCレポーターおよびPGCマーカーが発現上昇しているのか、また、全ゲノム的な遺伝子発現状態がどの程度PGCに近づいたのかを検証する予定である。 さらに、遺伝子発現状態の評価と並行して、上記の操作を行った細胞が、次世代個体を生み出せる生殖細胞としての性質を獲得しているかを調べる。そのために、無精子症モデルマウスの精細管へ得られた細胞を移植するアッセイにより(Brinster et al. PNAS, 1994)、精子が形成されるか、また、その精子から産仔が得られるかを確認する。健常な産仔が得られた場合は、ダイレクトリプログラミング法によるPGCの誘導は成功したと判断し、MEFからPGCが誘導されるメカニズムを明らかとするため、誘導過程の細胞で経時的に全ゲノム的な遺伝子発現解析を行うことで明らかとする。仮に配偶子形成能に異常がある場合は、in silicoのパスウェイ解析やプロモーター解析をさらに行い、両者の違いの原因となっている分子経路や転写因子を予測し、遺伝子操作や化合物によル操作を行い、再度、無精子症モデルマウスへの移植実験を行う。
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