近年、糖尿病と骨強度との関連が明らかにされつつある。本研究では、骨粗鬆症のモデルラットを軽度高気圧酸素の環境に1日3時間にわたって滞在させることで有酸素的な代謝を向上させて、骨粗鬆症の発症を予防・遅延できるかどうかを検討した。ラットの尾部を吊り上げる手法 (後肢懸垂) を使用して骨粗鬆症のモデルラットを作製した。生後8週齢のWistar系雄ラットを通常飼育群、骨粗鬆症群、骨粗鬆症+軽度高気圧酸素群の3群に分けた (各群6匹)。骨粗鬆症群、骨粗鬆症+軽度高気圧酸素群は、後肢懸垂の処置を施した環境下で21日間、及び、後肢懸垂終了後 (回復期) に10日間にわたって飼育した。骨粗鬆症+軽度高気圧酸素群は、後肢懸垂期と回復期の31日間、1日3時間にわたって軽度高気圧酸素 (1.3気圧、40%酸素) の環境に滞在させた。対照群と比較して骨粗鬆症群では、皮質骨の厚さと海綿骨の骨密度が有意に減少した。一方で、対照群と比較して骨粗鬆症+軽度高気圧酸素群では、皮質骨の厚さと海綿骨の骨密度の有意な減少は認められなかった。対照群と骨粗鬆症+軽度高気圧酸素群と比較して、骨粗鬆症群の海綿骨の破骨細胞の割合は有意に増加した。骨粗鬆症群と比較して骨粗鬆症+軽度高気圧酸素群では、Sclerostin mRNAの発現量が有意に減少した。これらの結果から、軽度高気圧酸素の環境への滞在によって、後肢懸垂で生じた破骨細胞の増加が抑制され、骨組織 (皮質骨と海綿骨) の減少が認められなかったのだと考えられる。軽度高気圧酸素の環境に滞在することで骨細胞に十分な酸素が供給されて代謝が向上し、骨細胞の分解が抑制されたと推察される。本実験から、軽度高気圧酸素の環境に滞在させることによって、骨粗鬆症モデルラットにおける骨組織の減少を抑制できることが明らかになった。
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