研究課題/領域番号 |
17J02078
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山城 貢司 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 仮現論 / 異端と分派 / 一神教(アブラハム宗教)研究 / メシア論 |
研究実績の概要 |
1.まず、本研究の主要課題である仮現論に関する歴史的研究において当面得られた結果について簡略に記す。当初より、仮現論の起源に「主の僕」としてのメシアにまつわる秘伝の存在が横たわっていることは想定していたが、この仮説を文献学的に精緻に証明する見通しがついた。特にこの関連で、第二神殿時代のユダヤ教における仮現論的な伝承をどのように位置付ければよいかが判明した。この理論的解釈に基づき、紀元後の最初の数世紀間に発達した仮現論神学を体系的に説明することが可能になった。 仮現論の初期イスラームにおける変容に関しては、そのlocus classicusともいえるQ4:157-158の新解釈の着想を得た。これにより、イスラーム的仮現論の諸相に今後新たな光が当たることが期待される。 2.次に、主要課題に取り組む過程で派生的に展開した一連の研究についても述べておきたい。先に述べたように、仮現論と「主の僕」神学には密接な関係があることが想定されるが、実際、後者を巡る洞察は、前者の問題にいわば「裏側から」アプローチすることにつながる。ユダヤ教・キリスト教・イスラームにおける「主の僕」としてのメシアのイメージの解明を通じて、特殊な異端としての仮現論理解を超出した包括的視野を得ることができるだろう。現段階では、特に『トレドート=イェシュ』とユダ=ハレヴィ著『クザリ』に関連して、革新的なテクスト解釈の可能性を発見した。 3.最後に、より宗教哲学的研究の側面を持った研究展開として、アブラハム宗教における掟ー仮象ー救済という星座的布置の解明という探求的展望が開けたことを付記しておく。本研究の成果はそのための土台の役割を果たすことになるであろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
採用初年度に当たる本年は、 主として資料の収集・読解に精力的に従事するとともに、今後の研究について、一定の方向性を確立するように努めた。また、若干の研究成果を発表することにも成功した。 本年度の最初の5ヶ月(四月から八月)は、 研究の構想を膨らませることに意識的に時間を割いた。この間、様々な着想やアイディアが得られたが、それらを具体的にどのように実証していくかという問題が課題として残った。日本においてアクセスできる資料が限られていたため、体系的な調査を直ちに開始することは困難であったが、手元にある文献を基に、問題点を抽出することに留意した。また、本研究のテーマに対するアプローチをより広いパースペクティブの下に置くため、心理学・社会学・人類学・哲学といった周辺人文学諸領野についても見識を深めた。 本年度の後半(九月から三月)は、ドイツのハイデルベルク大学神学部に滞在し、原典や研究文献の収集・読解に専念した。これについては一定の成果が挙がったものの、研究遂行に当たって、事前には予期できなかった状況が生じたため、研究計画を練り直すことを余儀なくされた。すなわち、ハイデルベルクに到着後、現地での受入研究者に相当するProf. Winrich Loehrより、2018年刊行予定の初期キリスト教仮現論に関する論文集が目下編纂中であるという事実を教示されたため、研究計画書において素描していた一連の個別的研究のうち、上記の論文集で直接的には扱われないと予想されるトピックに精力を傾注するという戦略を採ることにした。とはいえ、最新の研究動向を積極的に反映させたアップデートであるという意味では、こうした軌道修正をあながち否定的に評価する必要性はないものと思われる。 以上を総括すると、本研究課題はおおむね順調に進展しているといえるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
1.仮現論研究:(1)博士論文中において提出した仮現論の起源と発展についての新理論の拡充・洗練(これについては、来年度中には完成の目処をつけておきたい(博士論文のアップデート版に基づく)新著の中で扱うのが最善であろう)(2)マニ教における仮現論的キリスト論の再吟味(独立した論文として、再来年度完成予定)(3)仮現論との関連におけるクルアーンIV:157-158の新しい読みの提案とイスラーム的仮現論の展開におけるその意義の解明(既に大枠自体は出来上がっている、ユダヤ=キリスト教と初期イスラームの関係を扱った論文中で詳述する予定) 2.仮現論研究からの派生的な展開としての関連トピックに関する一連の研究;(1)ムハンマドの天界上昇エピソードについての新仮説の提唱(現在執筆中)(2)グノーシス主義神話における悪の起源論を巡る洞察 --特に救済論との関連で--(再来年度に集中的に取り組む予定)(3)サバタイ・ツヴィのメシア的秘伝の再構築(来年度完成予定) 3.以上に加え、仮現論、特にその核心にあると想定されるアブラハム宗教における「主の僕」としてのメシアのイメージの問題を、宗教哲学的パースペクティブから探究する予定。同探求は、将来のプロジェクトとして構想中の「非-人と再-現前」研究の一部を構成することが予期されるが、とりあえずは独立した論文として発表したい。 今後の見通しとしては、当面、近日中に完成が見込まれる複数の論文の執筆に集中したいが、来年度九月以降に予定されているパリ滞在中に、上記の1(2)、2(3)、3辺りの課題を遂行することができれば理想的だろう。
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