以下では、本年度、重点的に遂行した主要な研究を概略的にまとめる。 (1)マニ教輪廻転生論とDoctrina duarum viarum:マニ教輪廻転生論の基本構造と内容が、紀元後最初の数世紀に活動していた一部のユダヤ教とキリスト教の諸潮流において知られていたDoctrina duarum viarumと呼ばれる倫理教説を主要素材としていたことを証明する。これによって、マニ教成立過程の歴史的淵源(特にそのユダヤ=キリスト教的連関)に遡って、輪廻転生論をその神学的枠組みのうちに有機的に位置付けることが可能になる。 (2)クルアーン及び初期イスラームにおける仮現論:最初に、イエスの磔刑シーンを扱うQ4:157-158の微視的読解を通じて、同箇所のオリジナルテクストに22語の傍注が加筆されたことを論証する。この推定に従って、クルアーンにおける仮現論の歴史的=神学的意義を明らかにする。次に、キリスト論、とりわけその仮現論的要素に関して、クルアーンと初期イスラーム神学の間に思想的連続性があることが示される。最後に、イスラームにおける仮現論的伝統のユダヤ=キリスト教的起源(及びイスラーム成立におけるその分派環境的意義)が論じられる。 (3)中世の宇宙周期論:古代ギリシア=ヘレニズム思想において有力な見解の一つであった宇宙周期論(世界が生成/秩序と消滅/混沌を交互に反復するという時間観)が、一神教を特徴付ける直線的時間観に統合されていった過程に関する新理論を提示する。オルフェウス教・エンペドクレス・ピタゴラスの教説とアレクサンドリア=キリスト教神学の間の綿密な比較は、伝道の書1:2-11の宇宙周期論的解釈伝統が、ギリシア語を母語とするユダヤ人の間に存在していたことを強く示唆する。これを元に、シーア派とカバラーにおける宇宙周期論の発達を一貫した形で説明できる。
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