本研究において、磁性ナノテクノロジーを利用して、正常ヒトiPS細胞および筋疾患iPS細胞から人工筋組織を作製し、収縮活性を指標として新たな筋分化誘導法の開発を行った。従来、in vitroにおける筋細胞の評価は、遺伝子・タンパク質発現の解析および、蛍光免疫染色による形態学的な評価によって行うことがほとんどであった。そこで本研究では、機能的磁性ナノ粒子(MCL)を活用した三次元組織作製技術(Mag-TE法)を用いて、人工筋組織の作製を行い、in vitroで筋細胞の収縮機能を評価した。 平成29年度の成果としては、健常人由来のiPS細胞、筋疾患患者由来のiPS細胞および、その遺伝子修復を行ったiPS細胞、それぞれ分化誘導に最適な播種細胞密度およびレチノイン酸添加濃度を見出した。さらに、これまでの研究でマウスの筋細胞の収縮活性に有用な結果が得られていた電気刺激培養を組み合わせることで、収縮活性を約2倍高めることに成功した。そして、iPS細胞から三次元筋組織を作製するために、微細加工技術で作製したPDMSデバイスと磁石を用いることで電気刺激に応じて収縮する組織体の作製に成功した。今回、本研究ではヒトiPS細胞から機能的な筋組織へ分化誘導するための培養法を検討し、結果として、収縮力を測定可能な人工筋組織を作製することができた。この成果は、骨格筋組織再生や薬剤スクリーニングへの応用に向けた人工筋組織の作製にとって有用な知見となることが期待できる。
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