本年度は再集団化飼育で活性化するニューロン群を特定するため、免疫組織化学法を用い探索した。その結果、カルシトニン受容体発現ニューロンが再集団化飼育により活性化することを見出した。そこで内側視索前野のカルシトニン受容体発現ニューロンが社会的接触行動を制御するのかを明らかにするために、カルシトニン受容体遺伝子に対するshort-hairpin RNA (shRNA)を発現するアデノ随伴ウイルスを開発した。このウイルスを内側視索前野に導入すると、カルシトニン受容体発現を高効率で部位特異的に抑制でき、このとき社会的分離時にみられる抵抗反応および社会的接触行動が有意に減少することが明らかとなった。カルシトニン受容体のリガンドとして神経ペプチドであるアミリンがしられている。アミリンを発現するニューロンも視索前野に局在しており、アミリン発現ニューロンとカルシトニン受容体発現ニューロンとの位置関係を調べた結果、リガンドであるアミリン発現ニューロンの細胞体に受容体であるカルシトニン受容体発現ニューロンの神経末端が接する様子が観察できた。このことから、カルシトニン受容体発現ニューロンの機能が逆行性伝達により制御される可能性が示唆された。そこで、カルシトニン受容体のアンタゴニストであるAC187を脳室内に慢性投与することによりアミリン-カルシトニン受容体経路を遮断した結果、社会的接触行動が有意に減少することを見いだした。以上より、「孤独」の認知を制御するメカニズムの一端として、カルシトニン受容体経路が関わる可能性を示唆するデータが得られた。
|