研究課題/領域番号 |
17J02169
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
高橋 洋平 大阪大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | 走化性受容体 / 細菌の運動 / シグナル伝達 / リガンド認識 |
研究実績の概要 |
私はコレラ菌走化性受容体Mlp24、Mlp37のペリプラズム領域(Mlp24p、Mlp37p)のリガンド認識機構、その差を詳細に解明すること、さらには走化性受容体を介した細菌内への情報伝達メカニズムの解明を目的とし、「①親和性がMlp24pとMlp37pで大きく異なるリガンドが結合した状態の立体構造をそれぞれ明らかにし、比較する。」「②細胞膜、細胞質領域を含む走化性受容体の立体構造を明らかにする。」という2つの研究を実施した。 ①に関して、私はMlp24p L-セリン複合体(Mlp24pとMlp37pのL-セリンとの解離定数は18.3, 3.2 µM)の立体構造を明らかにし、既に明らかにしているMlp37p L-セリン複合体の立体構造や、Mlp24p and Mlp37p L-アルギニン複合体(L-アルギニンに対する親和性はMlp24pとMlp37pでほぼ変わらない(解離定数は4.8, 5.6 µM)) の立体構造との比較を行った。その結果、Mlp37pはリガンド上部に位置するループ (以下UJ Loop) のコンフォメーションをリガンドによって変化させ、より強く結びついていたのに対し、Mlp24pはCa2+の配位によりUJ Loopが固定されていたため、Mlp37pのようなコンフォメーション変化ができていなかった。Mlp24pがMlp37pと比べて高いリガンド特異性を持つのは、この認識機構の差によるものであると考えられる。 ②に関して、私はMlp24 or サルモネラ走化性受容体Tarの細胞外-細胞膜-HAMP領域(Mlp24 or Tar-HAMP)、Tarの全長(Tar-full)の3つのコンストラクトを用いて大量発現、単離精製を試みた。その結果、全てのコンストラクトにおいて大腸菌での発現に成功しただけでなく、Tar-HAMPに関しては単離精製、結晶化にも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Mlp24pとMlp37pについて種々のリガンド複合体構造を解明し、ITC計測から得た親和性データと組み合わせることで、コレラ走化性受容体が複数の異なるリンガンドを認識する機構、非常によく似た構造でありながら大きく異なる親和性を示す構造基盤を原子レベルで見事に明らかにした。この結果は、日本生物物理学会において学生発表賞を受賞し、高く評価されている。 また、細胞膜内への情報伝達機構の解明を目指した研究では、膜貫通領域を含み、情報伝達に重要な領域を含むいくつかのコンストラクトの作成と精製に成功した。結晶化と共に近年、長足の進歩を遂げている低温電子顕微鏡法による解析も視野に入れた取り組みも開始しており、期待通りの研究の進展が見られた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、Tar-HAMPのコンストラクトに関して、脂質キュービックフェーズ(LCP)法やリシンメチル化法、Seeding法により、より高分解能の回折データを得られる結晶作成を試みる。さらに大腸菌での発現に成功しているMlp24やTarの全長のコンストラクトも精製方法を確立させ、結晶化を試みる。さらに現在行っている全てのコンストラクトにおいて、低温電子顕微鏡法を用いた解析も行い、立体構造解明を目指す。
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