研究課題/領域番号 |
17J02174
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山下 洋史 東京大学, 情報理工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 充足可能性問題 / 連続時間力学系 / アナログコンピュータ / 過渡カオス / ギブスサンプリング |
研究実績の概要 |
本年度は主に、Ercsey-Ravasz らによって提案された、充足可能性(SAT)問題を解く連続時間力学系についての研究を行った。CTDS solverは、割当によって破られる制約の重み付き和を最小化するための最急降下法と、解ではない極小値から抜け出すために制約の重みを変化させるダイナミクスを組み合わせたものである。前年度より、これをSAT問題に対するハードウェアアクセラレーターとして応用するための基礎とするべく研究を行っている。CTDS solver は前述の通りの2つのシステムからなっている。2つのシステムの中では時間のスケールが自然に定まるが、組み合わせたときの相対的な時間のスケールについてはあまり考えられていなかった。そのため、本年度はこの問題について取り組んだ。まず、CTDS solver の変種として相対的な時間のスケールがパラメータηで表されているものを提案した。次に物理的に実装したときの最適なηの設定を調べるため、計算にかかる時間のηに依存しない自然な評価尺度を、実装の上で物理的制約としてある時間の遅れを基に提案した。そして、その尺度に沿って実験と解析を行った結果、2つのシステムのどちらの速さが早すぎても性能に悪影響があることが分かった。現在この結果を論文にまとめ、投稿中である。また、この研究について2件の発表を行った。 また平行して、Herded Gibbs についての以前よりの研究を継続した。 Herded Gibbs は、マルコフ確率場(MRF) からのサンプリングを行うギブスサンプラーを決定論的に行うアルゴリズムである。以前よりこの Herded Gibbs についてサンプル数を増やしたときの推定誤差の振る舞いを解析しており、前年度に結果を論文誌に投稿していた。本年度は新たな実験を含めた査読対応を行い、2019年1月に受理され、出版された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は前年度より研究を行っていた充足可能性問題を解く連続時間力学系である CTDS solver について、物理的実装の観点から解析を行った。提案された時点での手法は理論的あるいは抽象的なモデルであって、物理的実装という面においては性能を評価することが難しかった。本年度の研究により、ある種の自然な評価尺度を提案することができ、その尺度にそって CTDS solver を構成する2つのシステムの相対的な時間のスケールについて、どちらのシステムの動作が早すぎても性能が悪くなり、バランスをとったパラメータ設定が必要であることが分かった。この結果について論文をまとめ、投稿することができた。 また、以前より行っていた Herded Gibbs のバイアスの解析に関しての論文が受理され、出版することができた。
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今後の研究の推進方策 |
充足可能性問題を解く連続時間力学系について、さらなる解析や実験を進める。このダイナミクスをハードウェアとしての物理的に実現するために、ハードウェアの物理的制約に即した手法の提案、およびその手法の性能評価を進める。また、既存の局所探索法と比較し、この手法がどのような問題インスタンスに特に適しているか、あるいはそれを解くためのコストの評価を行い、物理的実装を通じた応用のための第一歩としたい。
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