研究課題/領域番号 |
17J02177
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
孔 慶リョウ 九州大学, 工学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 花粉症ワクチン / 経皮ワクチン / DDS / 免疫療法 / 薬物キャリア / ナノ粒子 / エピトープペプチド / 経皮吸収 |
研究実績の概要 |
本研究では、日本人の4人に1人が罹患するアレルギー疾患であるスギ花粉症に着目した。花粉症唯一の根治療法である免疫療法は、ごく少量の花粉抗原を注射によって数年に渡り投与する手法であるが、長期通院や治療時の副作用が患者のQOL (Quality of Life)を低下させている。注射や舌下投与と比べ、経皮投与は薬物を皮膚から浸透させるため、簡便性、安全性、低侵襲性に優れている。そして、従来の花粉アレルゲンの代わりに、重篤な副作用を起こさない花粉抗原(T細胞エピトープペプチドまたスギ花粉-ガラクトマンナン複合体)を選択し、治療時間の短縮、医療費の大幅削減が期待される。以下に本年度の研究実施状況を示す。 本年度は、花粉症免疫療法のコスト削減を目的に、今までのT細胞エピトープペプチドの中で最も有効なペプチドAを花粉症抗原として、研究を進めた。まず、ペプチドAの溶解性を向上させるため、水溶性のアミノ酸を用いて、ペプチドAに修飾を施した。また、アミノ酸修飾-ペプチドAを油中ナノ分散化技術(S/O技術)によって油中にナノ分散させると、抗原の皮膚内部への浸透性が大幅に向上することを明らかにした。さらに、最適化されたペプチドAのS/O製剤を用いて、動物実験による花粉症経皮免疫効果を検証した結果、S/O化ペプチドAの経皮投与により、有効な花粉症抑制効果が得られた。さらに、この抑制効果は注射投与した場合と、ほぼ同程度であることが明らかになった。 さらに後半では、高効率な花粉症経皮免疫システムを完成させるため、抗原提示細胞を標的とした効率的な花粉抗原送達を提案している。多糖の一種ガラクトマンナンを用いることで、スギ花粉抗原を修飾し、また、共焦点レーザー顕微鏡CLSMとフローサイトメトリーFACSを用いることで、ガラクトマンナンで修飾したスギ花粉抗原は、樹状細胞の取り込みが向上することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度の研究成果によって、七つのT細胞エピトープペプチドを用いたS/O製剤の経皮投与によって、抗原特異的IgE値が大きく低下し、花粉症抑制効果が得られた。しかし、七つのT細胞エピトープペプチドを併用するのは、コストが高く、実用化は難しい。よって、今年度に花粉抗原の修飾と再探索を行って、花粉症経皮免疫療法を開発した。 本年度は、花粉症免疫療法のコスト削減を目的に、今までのT細胞エピトープペプチドの中で最も有効なペプチドAを花粉症抗原として、研究を進めた。まず、ペプチドAの溶解性を向上するため、三つのアミノ酸を用いて、ペプチドAを修飾した(以下、アミノ酸-ペプチドA)。また、アミノ酸-ペプチドAを油中ナノ分散化技術(S/O技術)によって油中にナノ分散させると、皮膚内部へのペプチドの浸透性が大幅に向上することが明らかとなった。最後に、最適化されたアミノ酸-ペプチドAのS/O製剤を用いて、動物実験による花粉症経皮免疫効果を評価している。具体的には、まず花粉症モデルマウスを作成した。次に、マウス耳介へのS/O製剤を塗布して治療を行った。最後に、マウス血清中の抗体産生量変動及びサイトカイン産生量変動による、経皮免疫効果を評価した。その結果、S/O化アミノ酸-ペプチドAの経皮投与により、花粉症抑制効果が得られた。さらに、この抑制効果はペプチドA水溶液を注射投与した場合と同程度であることが明らかになった。 後半では、高効率な花粉症経皮免疫システムを完成させるため、抗原提示細胞を標的とした効率的な花粉抗原送達を提案している。多糖の一種ガラクトマンナンを用いることで、スギ花粉抗原を修飾し、また、共焦点レーザー顕微鏡CLSMとフローサイトメトリーFACSを用いることで、ガラクトマンナンで修飾したスギ花粉抗原は、樹状細胞の取り込みが向上することを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、研究計画に従ってこれまで順調に進行してきたので、今後の研究計画に大幅な修正は加えない。 異物が抗原提示細胞に取り込まれて免疫系に認識されると、体内の免疫系が活性化する。体内では液性免疫と細胞性免疫という2種類の免疫が働いており、片方が増強されるともう片方は抑制される。花粉症の主な原因は、液性免疫が強く活性化され、免疫バランスが崩れることである。従って、花粉症治療には免疫バランスを調整することが重要であり、そのために免疫賦活剤(アジュバント)の利用が有効であると考えた。 そこで本研究では、S/O製剤を用いた経皮スギ花粉症治療において、その治療効果を高めるために、体内の免疫反応を液性免疫から細胞性免疫優勢に傾けるアジュバントに着目した。これまで使用してきた花粉抗原(エピトープペプチドAもしくはガラクトマンナンで修飾したスギ花粉抗原)と共にS/O製剤にアジュバントを組み込むことで、より高い治療効果を目指して検討を行う。具体的なアジュバントとしては、細胞性免疫を誘導できるアジュバントを予定している。また、アジュバントの添加方法として、S/Oの内部に花粉抗原と共内包、もしくは外部の油状基材に分散させることを計画している。いずれの場合も、最適なS/O組成条件の検討を行う。そして、アジュバントを導入した際の花粉抗原の徐放性や経皮浸透性の評価を行い、S/O製剤の最適化を行う。さらに、花粉抗原封入したS/O製剤とアジュバントを組み合わせることによって、高効率な花粉症経皮免疫システムを完成させる。スギ花粉症モデルマウスを作製し、ペプチドS/O化製剤により免疫化を行い、免疫治療効果の検証を行うとともに、経皮免疫の活性化機構の解明を行う。
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