研究課題/領域番号 |
17J02254
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
吉田 侑冬 東北大学, 情報科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | 安静時ネットワーク / 機能結合ネットワーク / 睡眠 / 疾患モデル / 光学イメージング / 内因性光信号 |
研究実績の概要 |
・長期低雑音計測のための手術手法の更新:第40回日本神経科学大会、および日本睡眠学会第42回定期学術集会では、類似手術を行っている研究者から意見を伺い、今まで行っていた計測前の手術手法を改良し、長期に渡ってより高い信号対雑音比で内因性光信号(OIS)を計測することができるようになった。今までの手術手法では3週間程度の期間が限界であったため、この改良により疾患の進行過程の評価や薬剤投与効果の評価など時間のかかる実験を行うことがより容易になった。 ・多元的睡眠データ記録技術の開発およびその解析:研究計画通り、覚醒・睡眠時の呼吸や心拍、体動をOISと同時計測し、それらがOISや安静時ネットワーク(RSN)に与える影響についての評価を行った。呼吸や心拍は睡眠と深く関与しており、睡眠状態によってOISへの寄与率が大きく変化することが明らかになった。特に、睡眠時のOIS信号を扱う本研究ではその影響が大きく、今後は同時記録した心拍信号、呼吸信号を用いてその影響を除く必要がある。 ・偏相関解析を用いたRSN解析:一昨年度に始めた偏相関解析を用いたRSN推定について結果をまとめ、第40回日本神経科学大会ではポスター発表を行った。また、偏相関解析を用いて求めたRSNの覚醒/睡眠状態依存性について日本睡眠学会第42回定期学術集会でポスター発表を行った。現在これらの結果と先行研究の結果を比較しまとめたものを論文誌に投稿中である。 ・疾患モデルマウスの扱い方について:計画していた疾患モデルマウスと健常マウスのRSNの比較実験をするために、発達障害モデルマウスとして甲状腺機能低下症マウスを用いたテスト実験を実施している。この疾患モデルの作成方法や飼育方法について東北大学大学院情報科学研究科の内田助教授に指導をしていただき、成長が遅く虚弱な疾患モデルマウスであるが実験を遂行できるよう試行錯誤をしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画上の「疾患モデルマウスを用いた基礎研究」については準備が進んでおり、予定通り3年次に実験を執り行う予定である。ただし、上記の通り予想より甲状腺機能低下症マウスは虚弱で身体的成長が遅く、実験をうまく実施するための試行錯誤に予想より時間が必要となった。また、予備の実験としてドーパミンニューロンノックダウンマウスを利用している他の研究室に協力してもらい、そのマウスの睡眠時OIS計測を行うことも計画している。 また、多元的睡眠データ記録技術の開発、およびその統合的解析技術の開発についても、覚醒・睡眠時の呼吸や心拍、体動を同時計測し、それらのOISへの影響を睡眠状態ごとに評価することで、統合的な解析を行っている。呼吸、心拍はOISへの影響が睡眠・覚醒状態ごとに差が大きく、その影響を評価できるようになったのは一つの成果だと考えている。本解析技術を実際に用いた結果については3年次中に論文投稿の計画をしている。
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今後の研究の推進方策 |
現在、健常マウスの睡眠時の脳機能結合ネットワークの観察を行い、例数と経験を重ねることができている。そこで、今年度は現在作成中の自閉症様の症状で知られている甲状腺機能低下症マウスを用いて、健常マウスとの比較を行うことを計画している。このマウスは胎児期及び乳幼児期に脳の発達に必要な甲状腺ホルモンを低下させた状態で飼育されたクレチン症の疾患モデルマウスである。クレチン症はその他の精神・神経疾患と類似した特徴を持ち、その背景構造を調べる基礎研究において有用である。現在は以下の2種類の実験を行い、例数を揃えて結果を論文の形にまとめることを計画している。 1:覚醒/睡眠状態を呈する甲状腺機能低下症マウスのOISイメージング実験 甲状腺機能低下症マウスに健常モデルマウスを用いた実験と同様にOISイメージング法を用い、機能結合ネットワークの比較を行う。自閉症は概日リズム障害を持つことがあり、甲状腺機能低下症マウスでも睡眠時に変化が現れることを予想している。ただし、甲状腺機能低下症マウスは身体の成長も健常モデルと比べて遅く、健常モデルとの比較実験には注意が必要であると考えている。 2:甲状腺機能低下症マウスの社会性評価のための行動実験 集団で飼育したときの他のマウスとの接触時間や、初見のマウスと見知ったマウスのどちらに接触を図るか、などの点を評価しマウスの社会性評価を行うことができる。甲状腺機能低下症マウスは自閉症様の症状が現れるため、社会性行動異常が観察されることが予想される。この様に実際に行動実験レベルの症状とマウス睡眠時の生体信号に関連を見つけたいと考えている。
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