研究課題/領域番号 |
17J02297
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
林田 眞悟 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | 二重ベータ崩壊 / マヨラナニュートリノ / 極低放射能 / 粒子識別 / 再帰型ニューラルネット |
研究実績の概要 |
KamLAND-Zen800の開始へ向けて、キセノン含有液体シンチレータ容器であるナイロン製ミニバルーンの製作を行った。ミニバルーンの製作はクラス1環境のクリーンルームで行い、不純物付着の可能性が低い状況で行った。また、二重ベータ崩壊核であるキセノンのリークを防ぐために、ヘリウムガスを用いた精密測定を行い、リークを補修を行った。これにより、当該年度内にミニバルーンの製作を完了することが出来た。 また、KamLAND-Zen800で主要な背景事象となる炭素10崩壊の新たな低減手法の開発を試みた。KamLAND-Zen800の観測目標であるニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊が電子のみを放出するのに対し、炭素10の崩壊では陽電子の放出を伴う。KamLAND液体シンチレータにおいて、陽電子は約50%の確率で崩壊寿命が3ナノ秒のOrtho-Positronium 状態を形成する。そのため、50%の確率で電子を伴う崩壊と陽電子を伴う崩壊の間で、シンチレーション波形に違いが生じる。本研究では、再帰型ニューラルネットワークを用いることで、シンチレーション波形違いを利用した粒子識別を試みた。粒子識別の確認として、KamLANDにおいてサンプル数の多いビスマス214崩壊事象と炭素11崩壊事象を学習データに用いて、両事象の弁別を行った。その結果、3.2%の誤判別率で24.2%の炭素11を判別出来ることを確認し、本手法の有効性が明らかになった。 更に、KamLANDの17光電子増倍管の一部にしか対応していない高性能電子回路による取得データを通常電子回路による取得データと組み合わせる解析フレームワークを開発した。ただし、解析の煩雑を理由に、性能の劣る20インチ光電子増倍管の利用は見送ることになった。2015年10月に行ったKamLAND-Zen400でのコバルト60線源を用いたキャリブレーションデータを用いて位置分解能を確認したところ、検出器中心の事象で位置分解能が約0.9cm向上することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ナイロン製ミニバルーンの製作において、予想外にリークが多く、本年度内にKamLAND-Zen800観測を開始することは出来なかったが、翌年度初頭には十分開始出来る見込みである。 また、観測開始後に問題となる炭素10崩壊による背景事象について、新たな低減手法を考案し、有効性を確認出来た。更に、高性能電子回路取得データと現行電子回路取得データを組み合わせる解析フレームワークの開発にも成功している。 以上より、来年度には最終目標の達成に期待出来る。
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今後の研究の推進方策 |
来年度春季にKamLANDへのナイロン製ミニバルーンインストールを行い、キセノン含有液体シンチレータ導入後、夏季にKamLAND-Zen800観測開始予定である。 開発した粒子識別手法については、現在炭素10崩壊事象及びニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊事象といったサンプル数の少ない事象に対応できていない。今後、キセノン含有液体シンチレータの特性を理解し、シミュレーションにより波形を生成することでKamLAND-Zen800に適用する予定である。 高性能電子回路を組み込んだ解析フレームワークには、データ解析の煩雑さから20インチ光電子増倍管の取得データを除外している。今後、20インチ光電子増倍管を追加することで、さらなる性能向上を試みる。
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