本研究では、既知タンパク質立体構造データベースを解析することにより、天然に存在する構造パターンと存在しない構造パターンの網羅的分類を行った。さらに、既知タンパク質構造パターンの統計データにいくつかの法則性を見出し、それらをタンパク質構造パターンが従うべきルールとして整理した。ルールを考慮することにより、本研究では天然に存在しないが実現可能と考えられる新規構造パターンを8種類同定した。次に、これらの新規構造パターンを持つようなタンパク質分子を計算機によって設計した。 続いて設計タンパク質を実際に合成し、デザインの成否を実験的に検証した。デザインタンパク質をコードした遺伝子を購入し、大腸菌により発現・生成して人工タンパク質溶液サンプルを得た。サンプルに対し、二次構造形成と熱安定性を確認するためのCDスペクトル測定、溶液中で単一の構造を維持しているかを確認するための2D-NMR(1H-15N HSQC)の測定をそれぞれ行った。これらの実験結果をもとにして8種類のターゲットそれぞれについて最も安定にフォールドすると考えられるデザイン配列を選抜し、最終的な検証としてNMRによる溶液構造の実験的な決定を行った。NMR構造決定の結果、8種類全てのターゲット構造について、溶液中での立体構造が想定通りの構造へと正しくフォールドしていることが確認された。 上記の結果から、本研究で提案したタンパク質構造の実現可能性を判断するための指標が実際に有効であることが示された。この指標を活用することで、現在天然タンパク質として存在しないような構造パターンであっても、人の手で新規に創り出すことでその有用性を網羅的に探索するという方向性の研究が可能になるはずである。
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