研究実績の概要 |
昨年度までの研究成果によって、脂質膜の安定性を大きく向上させることに成功したが、本研究の目的である高効率な薬物副作用のためには、複数の薬物の副作用を同時に測定することができる系の構築が必要である。本研究では、そのための系として、上述のシリコン基板を多数保持でき、一度に複数の膜を同時に形成することができるマルチウェル型チャンバーの構築に取り組んだ。マルチウェル型のアレイチャンバーに関しては、すでに本研究室での先行研究において9ウェル型のチャンバーの設計・製作を行っていたが、測定中に水漏れが起こってしまうことや、測定に必要とするタンパク質の量が多い、作業性が悪いなどの様々な欠点を抱えていた。本研究では、これらの欠点を克服した上でのウェル数の拡張を目指し、16ウェル型のアレイチャンバーの設計・製作を行った。このチャンバーは9ウェル型アレイチャンバーで問題となっていた、必要なタンパク質量や測定中の水漏れ等の問題をほぼ解決しており、これによって高効率な薬物副作用検査系構築のための基盤技術を確立することができたといえる。また、上記以外にも、窓を開けたチャンバーを用いて、脂質膜内部に半導体ナノ材料(PCBM: [6,6]-Phenyl-C61-Butyric Acid Methyl Ester)を包埋し、その光応答を見るという研究も並列して行った。その結果、光が膜に照射されている間のみ電流値が変動するという現象を発見した。この技術は液中で動作する光センサへの応用を期待することができる。以上により、本研究によって培われた技術は将来的に、創薬費用の低減につながるだけでなく、各種バイオセンサや、生体内で働くタンパク質の機能調査を効率的に行うデバイス、新しい動作原理を持つ光デバイスの創製などの様々な用途への応用が期待できる。
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