研究課題/領域番号 |
17J02366
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
山崎 世理愛 早稲田大学, 文学学術院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 葬送における装身具の利用 / 古代エジプトの葬送習慣 / 装身具の図像表現 / オブジェクト・フリーズ / オシリス神化の埋葬 / 装身具のカテゴリ認識 |
研究実績の概要 |
今年度は、まず中王国時代を対象に分析および考察を進めた。データの構築と分析が主な作業となっていた昨年度とは違い、文献資料や先行研究をもとにより高度な議論をおこなうことができた。具体的には、これまで無批判に受け入れられてきた特定の埋葬形態に対する概念に疑問を呈し、実際に収集・分析した結果をもとに、より当時の認識に近い新たな枠組みを提示した。そして、特定の装身具セットが死者の来世への道のりにおいて重要なものであったことも指摘した。当該分野において、新たな視点から研究をおこなった意義は大きいと考える。さらに、引き続き装身具利用の「理想」と「現実」の解明を進め、国内外の学会でその成果を発表した。こういった過程で、オブジェクト・フリーズと呼ばれる図像資料から得られる情報の重要性を強く感じ、2018年3月にエジプト・カイロ博物館において資料調査をおこなった。未公開資料を実見し、記録・写真撮影等をおこなうことができ、大きな成果を得ることができた。現在は、その資料をもとに、さらなる分析を進めている。 当該年度は、中王国時代だけでなく、新王国時代を対象とした分析もおこなうことができた。具体的には、中王国・新王国時代の両時代で利用された装身具であるペクトラルを対象に、図像資料および出土コンテクストや分布状況から、時期間で扱われ方や担った意味にはどのような違いがあるのかを分析した。その結果、同じ種類の装身具であっても、大きな変化があることが分かった。ペクトラルは、中王国時代には王の権力の強さやその王との親密性を示す役割を担っていたが、新王国時代には専ら葬送において無事に来世にたどり着けるようにという護符としての役割を担うようになったのである。なお、この成果は論文として発表した。装身具利用の分析から当時の葬送習慣の変化や社会背景を描出する試みは斬新なものであり、当該分野に大きく寄与すると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は、積極的に研究に取り組むことができた。特に、これまでの研究成果の発表に力を入れることができた。たとえば、修士論文の成果をもとに、これまでの分析結果をまとめて複数の学会において発表をおこなった。中でも、当該年度は初めて国際学会で口頭発表をおこなった。2018年には、著名な研究者が数多く出席する大きな国際学会でポスター発表をおこない、高評を得た。 これまで主要な対象としてきた中王国時代の装身具については、図像資料と考古資料を用いてより具体的な利用の様相を明らかにできたと言える。また、その過程で木棺に描かれたオブジェクト・フリーズと呼ばれる図像資料の重要性を認識し、新たな課題を立てることができた。その課題の達成に向けて、海外において資料調査を実施することで、さらに研究を進展させた。具体的には、2018年3月にエジプト・カイロ博物館において未公開資料にアクセスし、資料化をおこなった。また、日本学術振興会の若手研究者海外挑戦プログラムに申請・採用されたため、2018年9月から2019年3月まで海外の研究機関でオブジェクト・フリーズを対象に研究を進める予定である。こういった今後の研究進展に関わる点においても、本年は積極的な姿勢で取り組めたと言える。 また、中王国時代に加えて、新王国時代の装身具を対象とした分析もおこなうことができた。これまでは、専ら中王国時代に使われた装身具を対象としていたため、時期による装身具利用の変化の解明という本研究課題を達成するにあたって大きな進展である。具体的には、自身が参加するエジプトでの調査で、実際に出土遺物を観察し、実測・写真撮影したものを分析対象として論文を執筆した。その論文は査読付き雑誌『エジプト学研究』に掲載されている。新王国時代の装身具研究をおこなうにあたって軸となる分析が当該年度にはおこなえた。 以上より、当該年度は順調に進展したと言える。
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今後の研究の推進方策 |
まず、平成30年度は、特に中王国時代初期の木棺に施されたオブジェクト・フリーズの分析をおこなう。この図像資料に描かれた装身具を集成し、分析をおこなうことで、実際に墓から出土した装身具との比較が可能になる。その比較結果を地域、社会階層、時期ごとに見ることで、葬送における装身具利用の実情だけでなく、社会的背景の一端も明らかになるのである。具体的には、4月から8月の間にオブジェクト・フリーズの集成を開始し、海外博物館のオンラインカタログや実際に海外の博物館に訪れることで資料を集成する。そして、9月-翌年3月には、ベルギーのルーヴァン大学に滞在して研究をおこなう。ルーヴァン大学には、オブジェクト・フリーズを研究しているHarco Willems教授がいらっしゃるため、本研究を実施する上で非常に有益な指導をして いただけることが期待される。すでに、ルーヴァン大学から訪問研究員として滞在することの許可を得ている。滞在中には、1.欧州の博物館に所蔵されているオブジェクト・フリーズ資料を全て実見し資料化、2.Harco Willems教授から研究指導を受けオブジェクト・フリーズの分析を実施、の2点を中心におこなう。以上に加え、新王国時代の装身具についても昨年度に引き続き分析をおこなう。すでに論文を1本執筆しているが、それをさらに深めていく。 最終年度である平成31年度には、オブジェクト・フリーズの分析結果をまとめ、国内外の学会で発表するとともに、論文を執筆する。また、当該年度は新王国時代の装身具研究を最終段階にまで進める。具体的には、図像資料と考古資料を比較し、地域・社会階層による装身具利用の違いを解明する。そして、本研究課題を完遂すべく、中王国時代と新王国時代における装身具利用を比較し、通時的な変化を解明する。なお、本研究課題の成果は、博士論文における大きな位置をしめるものとなる。
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