研究課題/領域番号 |
17J02408
|
研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
庄司 佳祐 宇都宮大学, 農学研究科, 特別研究員(PD)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
|
キーワード | piRNA / virus |
研究実績の概要 |
(1)ウイルス感染時に産生されるpiRNAの機能解析 一般にRNAウイルスに感染した細胞においては、RNAウイルスを元に、siRNAが産生され、ウイルス抑制に寄与する。BmMLVに感染したBmN4細胞においては、このsiRNAのみならず、本来宿主ゲノム内に存在するトランスポゾンを抑制するためのsmall RNAであるpiRNAも産生されていた。また、これらのsmall RNAの分布は異なっており、siRNAはgenome全体から一様に産生されているのに対して、piRNAは特定の領域から集中して産生されていた。これらの機能を確認するため、siRNA経路およびpiRNA経路の中核因子を抑制した際に、ウイルスの脱抑制が生じるかどうかを確認した。その結果、BmN4細胞においては、siRNA経路とpiRNA経路の双方を用いてBmMLVを抑制していることが判明した。 (2) piRNAの基礎情報収集:piRNA経路関連因子の機能解析 piRNA経路自体の研究も未だ途上にあり、piRNA経路(piRNAの産生からトランスポゾン抑制)のどこかの段階において寄与するものの、具体的な役割が判明していない遺伝子が数多く存在する。そこで、これらの遺伝子を抑制した際のpiRNAライブラリを作成することで、これらの遺伝子の役割を解明し、将来的にはBmMLVに由来するpiRNA産生への寄与を明らかにすることを目的として解析を行った。その結果、いくつかの遺伝子を抑制すると、BmMLVに由来するpiRNA量が増加することが判明した。これらの遺伝子は、piRNAによるBmMLV抑制機構に関与しており、BmMLVが脱抑制を受けたため、piRNAの鋳型となるBmMLVゲノム(およびサブゲノム)が増加することで、BmMLVに由来するpiRNA量が増加したと考えられる。現在これらの遺伝子のより詳細な解析を行っている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではカイコ卵巣に由来するpiRNA産生培養細胞を用いて、当該細胞に持続感染するRNAウイルスを認識するpiRNA機構を明らかにするものである。1年目の研究において、RNAウイルス感染時に産生されるpiRNAの機能の一端を明らかにすることに成功し、複数の学会および論文にて発表を行った。複数の研究室との共同研究であったが、庄司氏はその中でも中心的な役割を果たし、研究を成功に導いたと言える。さらに、特に、抑制機序の一端を詳細なバイオインフォマティックス解析を用いて明らかにしたことは高く評価できる。一方、piRNA経路関連遺伝子のノックダウンライブラリの解析から、piRNAによるBmMLV抑制に必要な遺伝子が分かりつつある。それに付随して、未だ機能の詳細が未知であった遺伝子の機能も示唆されつつあり、研究の発展が期待される。また、バイオインフォマティックス解析のみならず、変異ウイルスの構築など、いわゆるwetな実験も自身で進めており、今後の展開が楽しみである。以上を踏まえると、研究の進捗状況としては期待以上の進展があったと評価できる。
|
今後の研究の推進方策 |
(1)ウイルス感染時に産生されるpiRNAの機能解析 今後は、ウイルス感染時に産生されるsiRNAおよびpiRNAの詳細な解析を元に、これらのsmall RNAの作用機序を明らかにする。また、piRNAがサブゲノム領域から主に産生されていたことから、piRNAはウイルス全体を認識しているのではなく、限られた領域の情報を認識していることが考えられる。そこで、例えばサブゲノム領域からの転写に影響のあるような変異BmMLVを作成することで、piRNA経路によって認識されないBmMLVの作成を目指す。また、サブゲノムプロモーターのみを持つようなRNAを導入することでも、piRNA経路に認識されるウイルス側の条件を探る。 (2) piRNAの基礎情報収集:piRNA経路関連因子の機能解析 piRNA経路関連遺伝子の機能解明を進め、BmMLVを認識する機構が、piRNA経路のどの位置を占めているのかを明らかにすることを目指す。その際、BmMLVに対するpiRNAを産生する培養細胞と産生しない培養細胞の比較解析も行う。
|