研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、微惑星形成理論における大きな不確定要素となっているダスト・アグリゲイトの空隙率や構成粒子半径を観測的に推定し、様々な理論モデルを観測量の観点から精査することである。 本年度では、まずダスト・アグリゲイトの光学特性に関する研究を行った。原始惑星系円盤の分野において、これまで標準的に利用されてきた有効媒質近似やDistribution of Hollow Spheres (DHS)法の妥当性を, T-Matrix法を用いた数値計算によって検証した。その結果、低密度アグリゲイトの半径が入射波の波長より大きくなると、従来の手法は正しく不透明度を計算できないことが明らかになった。こうした問題を解決するため、我々はBotet et al. (1997, ApOpt, 36, 8791)によって定式化された平均場近似と幾何光学近似の考え方を組み合わせた新たな光学モデルを構築した。T-Matrix法によって得られた結果との比較から、我々の手法は、高い精度でアグリゲイトの吸収・散乱不透明度を再現できることがわかった。さらに、アグリゲイトを構成するモノマー間の高次の電磁場の相互作用がミリ波のダスト吸収不透明度に大きく影響し得ることを指摘した。これにより、円盤のミリ・サブミリ波観測結果に対し、新たな解釈が可能となった。これらの研究成果を1編の論文にまとめ、査読付き国際学術誌に投稿中である。 また、上記の研究に加えて、原始惑星系円盤の可視光・近赤外線域における輻射輸送計算を行い、アグリゲイトが存在する円盤の観測的性質を調べる研究も行った。その結果、従来の光学特性モデルに従うと低密度アグリゲイトの存在が示唆されてきた天体について、我々の光学モデルを適用すると、低密度ではなく高密度アグリゲイトの存在を示唆する結果を得た。本研究成果は次年度に論文として発表する予定である。
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