研究実績の概要 |
妊娠高血圧腎症(preeclampsia, PE)は妊娠によって発症する高血圧で、蛋白尿をともなう。脳出血・心不全などによる母死亡、児の死亡・未熟児の発症の原因となるが、PEの根治的療法は胎児胎盤を娩出する以外になく、その病態に不明な点は多い。IgA腎症は本邦で最も多い慢性腎炎でかつ若年者に多い疾患であるため、妊娠可能な年齢の女性に多く発症する。また、IgA腎症患者は妊娠時PEを発症しやすいことが国内で示唆されている。IgA腎症合併妊娠の病態は不明であり、また現在IgA腎症の治療に使用されているアンジオテンシン変換酵素阻害薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬などは妊婦に禁忌である。そのため、IgA腎症患者の妊娠および出産は制限されており、妊婦に投与可能なIgA腎症治療薬の開発が重要である。 IgA腎症自然発症モデルgrouped ddY (gddY)マウスは、妊娠により軽度の血圧上昇、尿蛋白増加、PE様の腎病理 (血管内皮障害、メサンギウム基質増加)を示し、胎仔重量は有意に軽く、胎仔発育不全を示した。血中のsFlt-1濃度は正常妊娠マウスにくらべ有意に高値であり、PEと同じく妊娠gddYの腎臓において、エンドセリン(ET-1)発現上昇が確認された。更にアデノウイルスを用いてsFlt-1を過剰発現させると、妊娠gddYマウスでは、血圧や蛋白尿が増悪し、腎糸球体は非常に重い血管内皮障害・ポドサイト障害・糸球体硬化病変を示した。これまでのデータから、IgA腎症合併妊娠はPE様の症状を呈すること、その機序の一つに妊娠中に増加したsFlt-1によるエンドセリン系の亢進の寄与が示唆された。
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