本研究はハンドウイルカ属を対象とし、環境の認識と社会的ふるまいを行動観察と実験検証から明らかにし、それを他種と比較することで、その進化的要因を検討することを最終的な目標としている。最終年度の本年度は、ハンドウイルカを対象とした認知実験と行動観察を行なった。 ハンドウイルカがどのように自種とそれ以外の種を見分けているか検討するため、写真を使った弁別課題を行なった。正解の刺激をハンドウイルカ、不正解の刺激を海、ハンドウイルカ以外の小型ハクジラ類、陸上哺乳類とした。テストでは写真を正立、倒立、位相スクランブルで呈示した。さらに、どのような体勢で写真を見るか、写真の提示方法によって体勢が異なるかも調べた。これらの結果から、倒立効果が見られるかなどハンドウイルカが、どのように視覚によって種認識を行なっているか、陸上動物と異なるか検討した。 ハンドウイルカを対象に、自身の選択に対して他者の意見が与える影響を、弁別課題を用いて調べた。課題の難易度や、イルカに指示を与える人の動作を変えた複数の課題を行うことで、ハンドウイルカがどのような状況において人の意見に影響され、自分の選択を変えるかを検討した。今後、対象個体の反応など、より詳細な解析を行う予定である。 飼育下のハンドウイルカを対象に、社会行動の観察を行なった。胸びれで相手をこする行動は親和行動の一つであり、擦られる個体がより利益を受けるとされている。この行動が互恵的に行われているか、個体の社会的地位が交代の対象・非対称性に影響を与えているかなどを調べ、本種がどのような親和的関係を形成・維持しているか検討している。さらに解析を進め、論文にまとめ発表する予定である。
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