研究課題/領域番号 |
17J02455
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
西口 雄基 上智大学, 総合人間科学部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 抑うつ / 認知バイアス修正法 / 認知 / 注意 / 身体運動 |
研究実績の概要 |
本年度は「感情刺激への注意に運動が与える影響」及び「ベイズモデリングによる注意バイアス修正法の解析」の二つの実験を実施することができた。 前者の研究では、感情刺激への注意について検証を行った。感情刺激への注意は感情のコントロールや抑うつ、不安の持続において重要な役割を果たしていると考えられているが、これに身体運動が影響を与えるかどうか検証を行った。実験の結果、先行研究からの予測に反し、上方向への運動とネガティブ刺激への注意が相関していることが示された。さらに、この傾向はアレキシサイミア(失感情症)傾向が低い参加者において強く見られ、アレキシサイミア傾向が高い参加者では弱いことが分かった。この実験の結果から、感情刺激への注意のような無意図的処理にも身体や運動が影響を与えることが示唆された。 後者の研究では、ネガティブ刺激への注意を認知トレーニングによって低減させ、抑うつや不安を予防・治療することを目指すトレーニングである注意バイアス修正法(ABM) に関して検証を行った。ABM を実施した先行研究である Nishiguchi et al. (2015)のデータセットに関して、本研究では Linear Ballistic Accumulator (LBA) というモデルに基づいて結果の再分析を行った。LBAによって Nishiguchi et al. で見られた注意バイアスの変化をより詳しく分析し、何が注意の変化をもたらしたか特定することを目的とした。分析の結果、 Nishiguchi et al. においてトレーニング中に明示的な教示を与えた群においては、ネガティブ刺激を呈示した位置に現れたターゲットの処理が抑制されていたことが示された。この結果から、明示的教示を用いたABMによってネガティブ刺激からの注意解放が特に促進されていた可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、前年度途中まで実施していた研究を引き継ぎつつ、特別研究員として実行を計画していた研究に着手した。具体的な進捗として、まず運動が感情刺激への注意に与える影響に関する実験を実施し、すでに発表に十分なデータを収集することができた。現在分析がほぼ完了し、学術誌に投稿準備中である。さらに、当初は計画していなかったが、ベイズモデリングを用いた統計解析により、認知トレーニングの結果をより詳しく分析することができるか検証した。先行研究で得られた結果について再分析を行ったところ、認知トレーニングによってどのような認知プロセスが変化するか特定することができた。この分析結果については学術誌に発表する準備中で、すでに原稿が完成している。また、平成30年度以降のデータ解析にもこの方法を使った詳細なデータ解析が可能になることが期待できる。 一方で、実験参加者の募集があまりうまくいかず、予定よりもトレーニング課題の準備が遅れてしまっている部分がある。すでに課題については完成しているが、平成29年度中には本格的なトレーニングを実施することができなかった。平成30年度にはすぐに実験を実施するため、すでに倫理審査や参加者プールの確保などの準備を実施している。 このように、予定に比べて進捗が遅れてしまった部分がある一方で、予想よりも成果をあげられた部分もあるため、当初の計画とは少し異なるものの、おおむね順調に研究が進展しているものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度の研究では、最初に抑うつIAT及び連合抑制トレーニング課題の調整、妥当性の確認を行ったうえで実際のトレーニングの実行に移る。まず、抑うつIATについては先行研究において日本語版が作られていないため、本研究で得られたデータを分析して学術誌に投稿する。連合抑制トレーニングについては、認知課題自体については大きな修正は必要ないものの、同時に神経活動を計測する必要があるか検討する必要がある。神経活動の測定を行わなくても、平成29年度の研究で用いたベイズモデリングによる解析を行えば十分である可能性があるためである。こうした内容についてできる限り専門家と議論しながら調整を進め、10月ごろまでにトレーニングのデータ取得が完了するよう研究を進める予定である。 その後、連合抑制トレーニングが治療効果をもつかどうか、1ヵ月のフォローアップテストを行いながら検証する。データの収集は平成30年度の11月から平成31年度の4月ごろまでを予定している。このデータを取得しながら、10月までに取り終えたデータを学術論文として投稿する。ベイズモデリングを用いた解析に時間がかかる可能性もあるが、平成30年12月ごろまでには論文の執筆を完了する予定である。
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